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次の日の朝。
夏帆は重たい頭を上げて、泣いて腫れたまぶたを開いた。
(最後の見送りはきちんとしよう)
今日で成瀬との同居が終わる。
夏帆の心の整理は一晩ではできなかった。しかし、成瀬とは最後までしっかりと成瀬と向き合おうと思っていた。
顔と髪をきちんと整えた。服も着替えた。
準備をして一階に降りていった。
「夏帆、起きるのが遅いな。もう成瀬は出勤するぞ」
「ごめん。きちんと見送るよ」
目を腫らした暗い表情の夏帆。
昨日、通夜帰りのような雰囲気の二人に佳孝は何も聞けずにいた。気にはなるが、さすがに夏帆の顔をみてしまうと口にはできなかった。
そして、白制服の成瀬が玄関にやってきた。
官帽を被り、白い革靴に足を入れる。
最近は見慣れたこの姿も、今日が最後だ。
成瀬が振り返る。
「お世話になりました。また遊びにきます」
それはいつも通りの穏やかな表情だった。
「いつでも来いよ。待ってるから」
佳孝も変わらず返事をした。
そして成瀬が夏帆に向く。
「夏帆さん」
「はい…」
口を開きかけてから、ふっと閉じた。
そして数秒間、夏帆を見つめる。
「本当に楽しかったです。ありがとう」
夏帆の恋心がきゅうっと痛んだ。
また涙が溢れそうになるのをぐっと我慢した。
「こちらこそ、ありがとう。成瀬さん。また、連絡します」
「ええ、待っています」
成瀬は大人だ。いつもと変わらない笑顔を夏帆に見せてくれた。
そして、成瀬が扉を開く。
朝の低い日差しが夏帆の目に飛び込み、目を細めた。
後光に包まれた成瀬は、扉が閉まると同時に消えた。
今日、あなたが制服に着替えたら
それは同居の終わり―――
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