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「夏帆、結婚式の招待状。受け取ってくれる?」
真希らしくない、少し控えめな声で夏帆に言ってきた。真希の手には、封書が握られている。その表書きには両家の名が印刷されていた。
仕事終わりの更衣室。真希が結婚式の招待状を夏帆に渡そうとしていた。
「結婚式、決まったの? 真希、よかったね」
夏帆はほっこりと笑った。友達期間が長かった真希と碧人はようやく結婚の日取りを決めたのだ。
夏帆は招待状を受け取ると、しんみりと言った。
「いよいよ、二人は家族になるんだね…」
「うん…。友達でも恋人でもない変な気持ちだね」
「幸せになるんだよ。真希」
「うん…。ごめんね、変なタイミングになって。いつ渡そうかって悩んでたらタイミングがわからなくて」
「気を遣わせたね。私は大丈夫だから。真希は自分の幸せだけ考えてね」
「ありがとう。夏帆」
「今日は一緒に飲みに行っちゃう?」
「どうしようかな…。ん?メールだ。あれ?お父さんからだ」
夏帆のスマホから着信がなり、見るとめずらしく父の佳孝からのメールだった。
「なんだろう」
夏帆がタップする。
そして画面を読み込んだあと、数秒間フリーズした。
「夏帆?」
真希が上着を脱ぎながら訊ねる。しかし、夏帆の反応がない。そして顔色が白くなり、よろけてしまった。
「ちょっ、どうしたの。夏帆?」
とっさに真希が夏帆の腕をとる。
焦点の合わない目をした夏帆はゆっくりと震える声で呟く。
「成瀬さんを乗せたヘリが… 行方不明だって……」
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