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勢い変わらない雨が降る中、夏帆は車に乗り込んで自衛隊基地まで来ていた。
夏帆はあれから父に連絡を入れたが『情報の進捗がない』と返されてしまい、居ても立っても居られなかった。
頭は真っ白だったが、行きしに真希から「気をしっかり持ちなさい!」と念を入れられ、なんとか基地の入口までやってきた。
コンコン
レインコートをはおった門番が車のドアをノックする。
「家族証の提示をお願いします」
夏帆は慌ててバックからカード入れを取り出し、家族証を差し出した。
これは父、佳孝との家族証である。これがあると基地内の許された場所なら入ることができる。
日は暮れているが、雨は相変わらず槍のように降っている。
そんな雨など気にせず、夏帆は車を駐車させると、そのまま建屋に駆け込んだ。
もちろん事務所の中は慌ただしかった。しかし、全身ずぶ濡れの夏帆が立ち尽くしていると、一人の隊員が駆け寄ってきた。
そして小声で訊ねた。
「関係者の方…ですか?」
”ヘリ搭乗員の関係者”ということだろうと、夏帆は大きく頷いた。
「では、第一会議室までお願いします」
夏帆は迷わず会議室に向かう。
その入口には、若い隊員が立っていた。
夏帆は家族証を握りしめた。
「お疲れさまです。確認のため家族証の提示をお願いします」
そう声をかけられ、夏帆は印籠のように家族証を見せた。
隊員は名簿と家族証を照合する。そして、ペン先が空振りした。
「あの、どちらの関係者になりますか?」
「成瀬柊慈さんですっ」
夏帆は掠れる声で精いっぱい答えた。
「えっと…ご親戚ですか?それとも婚約者の方でしょうか?」
「えっ…いえ…。知り合い…です」
夏帆の語尾が小さくなる。
隊員の表情が厳しくなる。
「申し訳ありません。ここにはご家族しか入ることができません」
「家族…?」
(ああ…
私は成瀬さんの何者でもないのか―――)
「ご家族、ではないんですよね?」
隊員はもう一度確認してきた。
「…はい…」
「では、お引き取りください」
隊員の低い声が廊下に静かに響いた。
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