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先ほどまでの雨は落ち着いてきた。車の中からワイパーなしでも外の世界がわかる。
夏帆は魂が抜けたように、ただ茫然と基地から見える海を眺めていた。
私は何をしていたんだろう。
成瀬さんとの貴重な時間を無駄にして。
ハンドルに拳を叩きつける。
私はなんてバカなのだろう。
後悔してもしきれないじゃないの!
「ごめん、なさい。成瀬さん…」
ようやく感情が湧き出てきた夏帆は、その場で思いのまま泣いた。
そして、ひとしきり泣くと、腕できゅっと涙をふき取った。
悔やんでも時間は取り戻せない。
まだ情報は何もないんだ。
勝手に絶望なんてしない!
しっかり前を見よう。
成瀬さんは私と約束してくれたよね?
必ず帰ると。
なら今は成瀬さんを信じる。
それが今の私にできることだから。
とそこに突然、車のドアを開け佳孝が入って来た。
「夏帆、大丈夫か?」
「お父さん…」
父の顔をみたら泣き出しそうになったが、夏帆は気丈さを守った。
「何か情報はあった?成瀬さんたちはどこにいるの?」
夏帆が矢継ぎ早に佳孝に質問した。
「哨戒ヘリの発動命令が出て、出発してから急に大気が乱れたらしい。海上は特に天候が急変するから、そこで何かしらのトラブルがあったんだろう」
「どこにいるのかもわからないの?」
「今、レーダーで探知ができなくなってるらしい」
「探知できないって…」
夏帆の声が震える。
「拾えない理由はいくつかある。例えば低空飛行だとレーダーは拾いにくくなる。だから、トラブル回避行動ですでに安全地にいればいいんだが…」
「…うん」
夏帆は泣かぬように唇をきゅっかみしめる。それを見た佳孝は、夏帆の不安を少しでも軽くしたいと、希望が持てる言葉を探す。
「成瀬のほかに、ベテランパイロットやセンサーマンも同乗しているんだ。訓練で培った知恵と技術で、アクシデント回避に全力で立ち向かっているはずだ。だから、信じよう」
夏帆はまっすぐ前を向いたまま、口を一文字に縛り何度も頷いた。
「夏帆、ずぶ濡れじゃないか。それじゃ風邪ひくぞ。帰って着替えろ」
「いやっ。ここで待つ」
「どっちにしろ、おまえは二十一時までしかいれない。先に帰って身体を休めておけ。何かあったら、すぐに連絡するから」
特別な理由がなければ、たとえ家族でも立ち入り許可の時間が決まっている。
夏帆は諦めたように頷く。
「うん…。ありがとう」
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