いっしょに食べよう晩ごはん

9/9
前へ
/9ページ
次へ
「ただいまー!」 夏祭りの後片付けを終わらせた翔が、元気な声と共に帰宅した。 「おかえり。……夏祭りお疲れさま」 先に出口家に来ていた耕三は、台所から声をかける。 「今日の夕飯はじいちゃん特製のハンバーグカレーだぞ」 「やったぁ!!」 「ちゃんと手を洗ってきなさいね」 「はーい!」 カレーもハンバーグも、自宅で作ったものを鍋ごと持ってきて温め直しておいた。 咲子が皿に盛った白飯の上にカレーをかけ、最後にハンバーグを乗せる。 「うわーっ、おいしそう!」 カレーと咲子が作ってくれたサラダ、そして麦茶が入っているコップとグラスが並ぶ食卓を前にして、翔が目を輝かせる。 「いただきます!」 「いただきます」 耕三は、カレーとハンバーグをひとくち食べた翔に訊ねる。 「うまいか?」 「うん。スゴくおいしい!」 「それはよかった」 がんばったご褒美として、翔の好きなメニューを選んだから、喜んでもらえてよかった。 「翔、呼びこみもけん玉も上手だったね」 「エヘヘ、びっくりした?」 「うん。お母さん、びっくりしちゃった」 満面の笑みを浮かべる翔を見て、耕三の口元も緩む。 「翔が頑張っているところを見て、じいちゃんも感動したよ」 定年退職したあの日、こんなにも充実した日々が待っているなんて、思ってもみなかった。 「翔、咲子さん、……ありがとう。この年になって、心が動くような経験が出来ているのは、ふたりのおかげです」 血の繋がりはなくても、誰かと絆を結ぶことはできると教えてくれて。 誰かと囲む食卓の温かさを思い出させてくれて、ありがとう。 願わくは少しでも長く、ふたりと一緒に過ごせますように。 「これからも、よろしく頼みます」 【おわり】
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加