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「ただいまー!」
夏祭りの後片付けを終わらせた翔が、元気な声と共に帰宅した。
「おかえり。……夏祭りお疲れさま」
先に出口家に来ていた耕三は、台所から声をかける。
「今日の夕飯はじいちゃん特製のハンバーグカレーだぞ」
「やったぁ!!」
「ちゃんと手を洗ってきなさいね」
「はーい!」
カレーもハンバーグも、自宅で作ったものを鍋ごと持ってきて温め直しておいた。
咲子が皿に盛った白飯の上にカレーをかけ、最後にハンバーグを乗せる。
「うわーっ、おいしそう!」
カレーと咲子が作ってくれたサラダ、そして麦茶が入っているコップとグラスが並ぶ食卓を前にして、翔が目を輝かせる。
「いただきます!」
「いただきます」
耕三は、カレーとハンバーグをひとくち食べた翔に訊ねる。
「うまいか?」
「うん。スゴくおいしい!」
「それはよかった」
がんばったご褒美として、翔の好きなメニューを選んだから、喜んでもらえてよかった。
「翔、呼びこみもけん玉も上手だったね」
「エヘヘ、びっくりした?」
「うん。お母さん、びっくりしちゃった」
満面の笑みを浮かべる翔を見て、耕三の口元も緩む。
「翔が頑張っているところを見て、じいちゃんも感動したよ」
定年退職したあの日、こんなにも充実した日々が待っているなんて、思ってもみなかった。
「翔、咲子さん、……ありがとう。この年になって、心が動くような経験が出来ているのは、ふたりのおかげです」
血の繋がりはなくても、誰かと絆を結ぶことはできると教えてくれて。
誰かと囲む食卓の温かさを思い出させてくれて、ありがとう。
願わくは少しでも長く、ふたりと一緒に過ごせますように。
「これからも、よろしく頼みます」
【おわり】
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