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廊下に出てからすぐのこと。
「あ、おかあさんだ。……おかぁさーんっ!!」
手を振る少年の姿を見つけた母親は、慌ててこちらに走ってくる。
「会田さん、すみません。翔がなにかご迷惑おかけしたんでしょうか?」
そうか、この子の名前は、翔というのか。
「いや、翔くんがおうちの鍵を忘れたというので、出口さんが帰ってくるまで、うちで待ってもらっただけですよ」
「翔、あなた……」
「……ごめんなさい」
“次忘れないように、気をつけましょうね”と翔に伝えた母親は、耕三に頭を下げる。
「会田さん、ありがとうございました。お礼になるかはわかりませんが、もしご迷惑でなければ、お夕飯、うちで食べていかれませんか?」
妻が亡くなってから、夕食はもっぱら持ち帰り弁当だが、今日は荷物が多くて買って帰れなかった。
「それはありがたいお話です。……お言葉に甘えてよろしいですか?」
耕三の言葉に、母親はにっこりと微笑んだ。
「もちろんです」
母親の名は、出口咲子といった。
「お邪魔します」
親子と共に、耕三は出口家の玄関に足を踏み入れる。
「翔、先に手を洗ってきなさいね」
「はーい」
玄関先にランドセルを放りだし、翔はぱたぱたと駆けていく。
「私も一緒に手を洗って構わないでしょうか?」
「はい、どうぞ」
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