いっしょに食べよう晩ごはん

3/9
前へ
/9ページ
次へ
廊下に出てからすぐのこと。 「あ、おかあさんだ。……おかぁさーんっ!!」 手を振る少年の姿を見つけた母親は、慌ててこちらに走ってくる。 「会田さん、すみません。(かける)がなにかご迷惑おかけしたんでしょうか?」 そうか、この子の名前は、翔というのか。 「いや、翔くんがおうちの鍵を忘れたというので、出口さんが帰ってくるまで、うちで待ってもらっただけですよ」 「翔、あなた……」 「……ごめんなさい」 “次忘れないように、気をつけましょうね”と翔に伝えた母親は、耕三に頭を下げる。 「会田さん、ありがとうございました。お礼になるかはわかりませんが、もしご迷惑でなければ、お夕飯、うちで食べていかれませんか?」 妻が亡くなってから、夕食はもっぱら持ち帰り弁当だが、今日は荷物が多くて買って帰れなかった。 「それはありがたいお話です。……お言葉に甘えてよろしいですか?」 耕三の言葉に、母親はにっこりと微笑んだ。 「もちろんです」 母親の名は、出口咲子(いでぐちさきこ)といった。 「お邪魔します」 親子と共に、耕三は出口家の玄関に足を踏み入れる。 「翔、先に手を洗ってきなさいね」 「はーい」 玄関先にランドセルを放りだし、翔はぱたぱたと駆けていく。 「私も一緒に手を洗って構わないでしょうか?」 「はい、どうぞ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加