12人が本棚に入れています
本棚に追加
「ハンバーグ、ハンバーグ!」
椅子の上に立ってはしゃぐ翔を、咲子がたしなめる。
「翔、座りなさい。会田さんはそちらにどうぞ」
ふたりの向かいの椅子に、耕三は腰掛ける。
炊きたてのご飯、煮込みハンバーグに味噌汁。
グラスには麦茶。
料理が並ぶ食卓に、3人は揃って手を合わせる。
「いただきます」
用意してもらった塗りの箸で、耕三はハンバーグをひとくち食べる。
「……うまい」
「ねー、おいしいでしょ?」
翔は誇らしげな笑顔を浮かべている。
「そうだな。おいしいな」
本当においしい。
ものすごく手の込んだ料理なわけじゃない。
けれど、誰かと一緒に食べるだけで、こんなにもおいしく感じられる。
「翔くんは、毎日ひとりで帰っているのですかな?」
「はい。放課後は小学校の敷地内にある学童保育で過ごして、18時にひとりで帰らせています。本当は、私が早く帰れればいいんですが……」
収入面を考えると、そうもいかないということだろう。
「実は私、今日で定年退職いたしまして、明日からどう過ごそうか思案していたところだったんです」
一日をもて余すよりも、なにか人の役に立てれば、少しは有意義な余生が送れるのではないだろうか?
そんな気持ちで、耕三は咲子にこう切り出した。
「もしよろしければ、今日のように、咲子さんがお帰りになるまで、翔くんをうちでお預かりするというのは、いかがですか?」
最初のコメントを投稿しよう!