押すか引くか

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押すか引くか

 夏美が去った食堂には、落ち込む篤史と、心配そうに篤史を見る沙紀と高木が居た。 「俺、このまま振られるのかな…」  ボソっと呟く弱々しい篤史の声に、二人は返す言葉が見つからなかった。  しばらくすると、梓がやってきた。  下を向いていた篤史は、梓が近づいてきた事に気付かなかった。  『バン!』  篤史のいる机を梓が両手で叩いた。  驚く篤史。 「課長!押すべし!です!」  突然の梓の言葉に、篤史は言葉が出なかった。 「課長!諦めるんですか?その程度の気持ちなんですか?私は嫌です!駄目です!」  梓の目が涙目になっていた。  篤史が梓を見つめた。 「私が誤解させてたかもです…」  そう言って、梓が俯いた。 「そっか…。悪かったな。巻き込んで」  そう言って篤史が謝ると、 「…課長、あの人と幸せになって下さい」  涙目のまま伝える梓に、 「頑張るよ」  と、優しく篤史が微笑んだ。 「部下たちに心配させてしまうなんて、情けない上司だな」  高木課長がニヤリとしながら篤史に伝えると、 「…ですね」 と言って、篤史も笑った。 「松田課長!結婚報告待ってます!」 沙紀が立ち上がり、ファイティングポーズをすると、周りで聞き耳を立てていた社員が拍手をしだした。  食堂は、いつになくお祭り騒ぎになっていた。
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