恋の行方

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恋の行方

 社員食堂のお祭り騒ぎを知らない夏美は、一人で自分のデスクで梓に言われた言葉を考えていた。  食堂から、一人、また一人と戻って来る中、皆が夏美をチラッと見てから席に戻っていく事に気づいた。 「なんで…?」  そう思ったけれど、心当たりのない夏美は、気にしないことにした。  沙紀が戻ってきた。  少し目が潤んでいる。  …泣いた?  夏美は、心配になった。 「…どうかした?先に戻ってきちゃって、ごめんね」  沙紀が泣いた時に、そばにいてあげなかった事を悔やみながら、夏美が沙紀にそう伝えると、 「違うんです!悲しいとかじゃ無いんです。…そうじゃなくて…」  そう言って沙紀は、言葉を詰まらせた。  沙紀は、夏美の恋を応援してる事を伝えたかった。  食堂での、梓と篤史のやりとりも教えたかった。  でも、余計な事を話して、篤史の気持ちやこれからのことを邪魔してしまいそうで、言葉が出でこなかった。  黙ってしまった沙紀を、不思議そうに見つめる夏美。  チャイムが鳴り、午後の仕事の時間なった。  沙紀は、夏美に頭を下げて、席についた。  小さく両手を握りしめながら、気合を入れた。  その様子を、夏美は少し気にしながらも、午後の仕事に取り掛かった。  帰りの支度をして、携帯電話のメールを開く。  そこには、 『久しぶりに今日帰るわ』  と、姉の冬子からメールが来ていた。  『すぐ帰るね』  そう返信して、携帯電話をバッグに入れた。    会社から出ると、今日も月が綺麗だった。  満月では無いけれど、晴れた夜空に癒やされる様な月だ。    『幸せに…か』  お昼の梓の事をまた思い出した。  私は、このままで本当にいいのかな…  キズを見せれない、全てをさらけ出せない、そんなお付き合い…、気づいたら3年もたってしまった。  篤史くんは無理してるかもしれない。  でも、私は、篤史くんを手放せない。  今日こそは、今日こそは、そう思って、篤史くんと大人な行為をしようと思うのに、篤史くんは、そんな雰囲気も無く、タイミングも無く…。  いざとなったら、怖くて逃げてしまうかもしれない。  だって、してしまったら、終わってしまいそうで…。  会えなくなる可能性だってある。 『やっぱりキズを見ると可哀想で痛々しくて…』  とか、思われそうで…。  少し泣きそうになるのを月を眺める振りをして我慢した。 『今日は、お姉ちゃんとたくさん話そう』  冬子に相談するのもいいかも…と、夏美は帰って来る冬子を思い出し、家に帰っていった。
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