5人が本棚に入れています
本棚に追加
幸せへと続く道
夏美が家に帰ると、母親が慌ただしく掃除をしていた。
『なぜ…?こんな夜時に…?』
今までにない、不思議な光景に、声をかけようとすると、
「夏美〜、ちょっと」
と、冬子の声がした。
冬子を探すと、二階へと向かう階段の途中で手招きしていた。
不思議に思いながらも、近づくと、手を引っ張られ、夏美の部屋へと連れて行かれた。
「なに?なに?お母さんも変なんだけど…」
夏美が冬子に問いかけると、
「気分も新たに気持ちも新たに、てね」
と、笑顔で答えが帰ってきた。
「え?」
と、意味が分からなくて聞き直すと、
「たまには気分も変えて、少し可愛くしてからご飯食べようよ。ほら、私もちょっといつもと違うでしょ」
そう言って、冬子が笑った。
よく見ると、いつもより少しデートっぽい。
「たまには、親にもこんな服も着られる大人になったんですよって、見せちゃおうよ」
と笑う冬子に、思わず笑ってしまった夏美だが、たくさん心配かけた両親が喜んでくれるかも…と思い、頷いた。
お化粧ももう一度し直して、夏美もホテルでディナーでもしそうな、淡いピンクのワンピースに着替えた。
リビングに向かうと、父親がソファで本を読んでいた。
夏美は不思議に思った。
『ここで本を読むなんて、珍しい…』
と。
父親は、寡黙な人で、リビングには、ほとんどいない。
いつも書斎に籠もっている。
「お父さんがここで本を読むなんて、珍しいね」
夏美が声をかけると、夏美をチラッと見てまた本を見ながら、
「あぁ…」
とだけ、返事が帰ってきた。
父親を不思議に思いながらも母親を探すと、キッチンでお茶の用意をしていた。
「あれ?夕飯は?」
夏美が気になって声をかけると、母親が慌てた様子で、
「え?夏美?やだ!冬子は?」
と、質問とは関係のない答えが返ってきた。
「え?お姉ちゃん?」
そう聞こうと声を出そうとしたら、玄関のチャイムが鳴った。
母親がホッとしたように、
「夏美、ちょっとあなた出てちょうだい」
と夏美に声をかけた。
いつもと違う家族に、不思議に思いながらも、玄関に向かい、玄関を開けると、そこには篤史が立っていた。
スーツ姿で花束と手土産を持っていた。
「…え?」
夏美がそう呟くと、篤史は笑顔で花束を渡してきた。
篤史が居ることに動揺した夏美は、思わず理由も分からないのに、花束を受け取ってしまった。
花束を見つめていると、篤史が夏美の頭に優しく触れた。
篤史の目を見つめる夏美。
そこに、
「来たなら、早く上がって」
と、冬子の声が聞こえた。
「よし、行くか」
そう言って、篤史は夏美の手を引きリビングへと入った。
最初のコメントを投稿しよう!