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大切にする
夏美の部屋。
ラグに座って、篤史は優しく背中をなでながら、夏美が落ち着くのを待っていた。
「お父さん達、今日来るの、知ってたの?」
「嫌だったかもしれないけど、冬子に頼んだんだ。冬子と連絡取ることが嫌だったら、ごめん。もうしないから」
「それはいいけど…、距離置きたいって言ったのに…、どうして?」
「何でか分からないけど、部下の河合梓って知ってるか?その子に諦めないで押してって言われて、今までの夏美ちゃんの行動とか言葉とか色々考えたら、怖がっていたのかなって思ったんだ」
篤史に言われて、夏美は梓の事を思い出した。
梓の思いが、夏美はすごく嬉しく感じた。
「梓さん…、お姉ちゃんに似てるよね」
ずっと気になっていた事を、夏美が言葉にすると、篤史は少し黙った。
そして、
「あっ、だからか!なんか仕事やりやすいんだよね。同士だからか…」
そう呟いた後、
「俺、冬子とは考え方が似ていて、議論はしやすかったんだ。ま、恋愛の好きって感じじゃなかったから、言いたいことも言えてたしな」
そう言って、篤史は笑うと、
「夏美ちゃんには、嫌われたくなくて言えなかったりしてさ。いい大人が、情けないよな」
そう言って、困ったような笑みを浮かべた。
「怖かったの。信頼してない訳じゃないのに、先に進めなくて…。篤史くんに無理させてるんじゃないかって…」
不安な胸の内を、夏美は言葉にした。
篤史はそっと夏美を抱きしめた。
「俺が好きなのは、君なんだよ。傷も、それに不安に思う気持ちも、全部含めた君が大切なんだ。それだけじゃだめかな?…結婚してくれないか?」
少し不安そうな顔で、篤史が夏美を見つめた。
夏美は泣きながら頷くと、篤史がまた抱きしめた。
「よかったぁ…」
そう言って、安心したように溜息をついた。
しばらくして、冬子が呼びに来て、篤史と夏美は、夕飯を食べにダイニングへと向かった。
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