翌日

1/1
前へ
/41ページ
次へ

翌日

朝、篤史と夏美は、ホテルで別れて1度各自の家へと戻ってから会社に向かった。  会社の前で、篤史は沙紀に呼び止められた。 「どうだったんですか!夏美先輩に聞けないので待ってました!」  真剣な顔の沙紀に、笑顔で、 「ありがとな。上手く行ったから」  そう言って篤史が笑うと、沙紀が周りの視線も気にせず大号泣しだした。  これに焦った篤史。 「は?え?いや、なんで?」  と、どうしたらいいか困っていると、 「おお!こりゃ噂の松田が、またやらかしたか」  と、笑いながら高木課長が現れた。 「助けてくださいよ。昨日上手く行ったって話したら、こんなに泣かれるなんて」  そう困った顔で、篤史が高木に伝えると、 「泣いてると、松田のもう一人の彼女だと誤解されるよ」  と、高木は沙紀の耳元で囁いた。 すると、沙紀は泣きながら、 「私が好きなのは、高木課長です!」 と、大声で叫んで、会社へと走っていった。 「ん〜、彼女、いいね」  そう言って高木が笑うのを見て、篤史は溜息をついた。  朝から、沙紀のパワーに疲れを感じながら部署に行くと、真顔の部下たちが待ち構えていた。 「課長!どうでしたか?」  そう聞く梓に、 「昨日は迷惑かけたな。上手く行ったから」  そう言って笑うと、今度は梓が泣き出した。  そして、 「よかったぁ!よかったぁ!」  と、声を上げて泣いている。  それを見て、涙もろい部下たちは、泣いてる人も何人かいた。  「この会社…大丈夫か…?」  篤史は思わず頭の中で呟いた。 「さあ、仕事!やるぞ」  篤史がそう言って声をかけると、各自涙を拭きながら自分の席へと戻って行った。  篤史は、 『なんか、今日とてつもなく疲れた…』  と、一人になって溜息をついた。  一方の夏美は…、 「先輩!おめでとうございます!」  何も言ってないのに、沙紀が抱きついて祝福をしてくれた。  周りの人達も、笑顔で拍手をしてくれていた。 『情報早い…』  夏美が頭の中で思っていると、 「松田課長に聞きました!私、本当に嬉しいです!」  と、沙紀が泣きながら言った。 『この分じゃ、篤史くんの前でも泣いてそう…』  と、困った篤史の顔を想像しながらも、 『こんなに心配してくれて、ありがたいな』  その思う気持ちが強かった。  この会社に入って良かった。  沙紀に会えた。  篤史に再会出来た。  自分を認めてあげられるようになった。  一人だったら超えられなかったいくつもの壁。  それは、たくさんの小さなタイミングで少しづつ超えられたのだと、改めて実感した日だった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加