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真琴は部屋に戻ると、机の上に置かれた植木鉢を見た。あれを確認するのが、最近の習慣となっている。数歩足を進めて、小さな植木鉢にそっと手を伸ばした。
数日前に、この植木鉢に植えたサルビア・エレガンス──別名パイナップルセージとも言うらしい──の種は、昔もらったものだ。
中学生の時、姉と2人で知らない街に行った時に、連れられて飛び込んだ洒落た花屋。そこの店主からおまけでもらった種子だった。確か、そうだったはずだ。
部屋を片付けていた時に、押し入れの奥で見つけたのだ。パイナップルセージは初心者でも育てやすいんだよと店主が言っていたことを思い出し、塞ぎ込んだ気持ちが少しでも晴れるなら、と育ててみることにしたのだ。
成長すると、赤い花が咲くらしい。試しに検索してみると、細長い紅色の花弁がヒットした。ふっくらとした細い根もとの先が短く剥かれていて、雄しべが数本覗いている。薄っすらと見える筋が茜色の緩やかな直線を描き、鮮やかに溶け込んでいた。
花には詳しくないが、なぜか無性に美しいと感じた。
こんな美しい植物が自分の部屋にあるのもいいと思い、試しに買い物ついでに寄ったホームセンターで安い植木鉢を購入した。初心者用の園芸土も買って、さっそく開封した。
それから数日経つが、まだ芽が出ないのである。
種が入っていた袋の裏に、発芽までの大凡の日数が表記されていた。6日から10日程度。しかしそれよりも明らかに時間が経っているというのに、まだ発芽しない。
条件が悪いのか、土が良くなかったのか、それともずっと押し入れの奥にしまいっぱなしだったからなのか──理由は、わからない。
「まだ芽出てないんだよな・・・・・・」
ダメだったのだろうか。少々残念な気持ちに、真琴は小さく息を吐いた。
こんな息詰まるような日々のせめてもの慰めに、花のひとつくらいは、開花させてみたかったのだが。
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