2:斎藤 真琴

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 翌日は、月曜日だった。憂鬱な気持ちを引きずりながら、真琴は通学カバンを背負う。机の上の植木鉢を一瞥し、まだ芽が出ていないことを確認した。  いつものように味のしない朝食──ロールパンひとつに千切りキャベツとトマトを添えただけのミニサラダもどきを飲み込み、冷めたコーヒーで飲みほす。しかし、成長期の胃袋には当然、それだけでは足りない。  腹の虫を鳴らしながら歩くのも馬鹿らしい。今日も途中のコンビニで何か買おう、そう考えて、スマホといっしょに財布をポケットに突っ込んだ。 「利帆、あんたいつになったらまともになるの?大学にも行けないんだから、はやく勉強しなさいよ。あなたは優等生じゃなきゃいけないのよ!」  喚く母の横をすり抜け、無言で靴を履いた。行ってきますの挨拶は必要ない。もう何年も、口にしていないと思う。 「ちょっと、真琴もしゃんとしなさい!そんなにだらっとしてたら利帆と同じになるよ」 「・・・・・・はいはい」  真琴は、甲高い母の叱り声をスルーした。もう何ヶ月もこの調子だ。そろそろいい加減にしてほしいと、下を向く。  外に出てドアを閉めた途端、怒声は鳴り響く蝉の声に掻き消された。目の前に広がる平坦な石塀、その向こうにそびえる白と灰色の戸建て。生まれてからずっと見てきた景色だ。  見慣れた風景は時に、日常を退屈へと染める安らかな麻酔剤になる。  鋭敏になった負の感覚をなだらかにし、増長しようとする不安や緊張を麻痺させてくれる効果があるのだ。  学校に行くことはつまらない。しかし、あのいつ自分に矛先が向けられるかわからない針山の中にいるよりかは──いくぶんか、気が休まるのだ。  
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