2:斎藤 真琴

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 向こう側へ行こうというのか、右隣に座っていた男子が席を立った。真琴の机の脇をすり抜け、歩いていこうとする。  途端に、彼は足を真琴の机の脚に引っ掛け、派手に転んだ。慌てて前の机に手をつくがその机も勢いで倒れ、真琴の机とその上の荷物ごと、彼は床に倒れ込むようにして転倒した。  机のぶつかる激しい音が響き、瞬時にして教室の中は静まり返った。一瞬の沈黙の後、傍に座っていた女子が慌てたように男子に手を伸ばす。 「痛ってえ・・・・・・」 「だいじょうぶ?すごい大きな音したけど」 「ああ。怪我はしてないよ、サンキュ」  ズボンをはたいて埃を払いながら、男子は明るい笑みを浮かべた。やがて、少しずつ教室内にざわめきが戻り始めた。 「・・・・・・うわ、最悪」  低くつぶやきながら舌打ちをしたのは、真琴だった。床に落ちたブルーハワイ風味のおにぎりを恨めしげに見た後、転んだ男子を睨んだ。 「清水(しみず)、俺の昼飯落ちたんだけど」  クラスの中で名前を覚えている、数少ないひとりだ。とはいっても、下の名前までは記憶していない。朝、真琴の机にぶつかってきた男子たちの中にいたようにも思う。 「え、マジ?悪い悪い。俺のメロンパンやるよ。ていうか、お前が机の横にでかいリュック置いてたからってのもあるんじゃね?座ってないで机なおすの手伝えよ」  倒れた机を近くの女子と一緒になおしている清水の言葉に、真琴は苛ついた。  確かに、自分は机の横にリュックをかけてはいた。だが、勝手に自分の机の横を通り過ぎたのは彼だし、足を引っ掛けて転んだのも彼自身の不注意のせいだ。責められる謂れはない。
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