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「自分で転んだんだろ。それより、人の飯食えない状態にしといて謝罪の一言もなしか?案外図太いんだな」
「はあ⁉お前なあ、メロンパンやるっつってんだろ。そんなに握り飯が大事なのか。毎日コンビニに行くくらいの金はあるだろ、そんなにこだわりがあるなら自分でまた買えよ」
「期間限定で、しかも人気商品だ。今行ったところでもう売り切れてる」
「知るか!」
次第に、周囲の注目の視線が向けられてきた。好奇の目が、真琴と清水の2人に交互にそそがれる。
目立つのは好まない。まだ納得できない部分もあったが、ここは一旦引くことにした。
「わかったわかった、俺が悪かった。おとなしくもらってやるよ、清水くんのメロンパン。悪いな、昼食もらっちまって」
「お前、当てこすりやがって・・・・・・ちょっとは自分の非を認めろよ」
「俺の非も何もないだろ」
それだけ言い放つと、真琴は鼻を鳴らした。いらぬ罪を被る必要はない。被害者というのは被害者であるがゆえに、往々にして憂き目に遭うものだ。
そういうことを、真琴はよく知っていた。手を差しのべられないのが当たり前の身分には、堕ちたくなかった。
「あー最悪、なんでこんなやつに」
盛大なため息をつきながら、清水は真琴の眼前の空いた机に、メロンパンを叩きつけた。
衝撃でメロンパンの柔らかな外壁はへこみ、ふっくらとした全身が大きく歪む。
「・・・・・・いや、俺つぶれたパンとか一番嫌いなんだけど」
つぶやいた途端、清水が勢いよく振り向き、再び怒りの視線をこちらに向けた。
ああ、これだから人と関わるのは面倒なのだ。
気だるさに蝕まれゆくのを感じながら、真琴はいやいやメロンパンの袋に手を伸ばした。
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