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母の罵声が、ドア一枚越しに延々と響いていた。甲高い声が真琴の鼓膜に突き刺さり、まるで自分までもが叱られているかのような感覚に陥る。
自室へ戻る途中に聞こえてきた叱り声は、今日も刺々しい。
「どうして落ちたのよ。あんなに勉強してたのに、なんで?努力が足りなかったんでしょ。もっと頑張るべきだったのよ」
ヒステリックな喚き声は、いつ果てるともなく続いた。だんだん、怒鳴り声に姉の嗚咽が混じるようになり、ついにそれは物を打つような激しい音の連続に変わっていく。
姉が志望校に落ちてから、母の態度はこれまでにも増して冷たくなった。それまでもあまり姉にはいい顔をしていなかったが、今や姉は、家族の中ですっかり無能扱いされていた。
なんなら、超えてはいけない一線すらも越されていたのだ。姉が長袖の服ばかりを着るようになったことに、真琴は気づいていた。
母の傍を通るたびにびくりと肩をちぢこめることにも、手を伸ばすたびに顔を歪めて腕を押さえることにも。
姉は、真琴の前では決して弱音を吐かなかった。泣き言を言っているところなど、見たことがなかった。
弟に、弱いところを見られまいとしたからだろうか。
──もしくは、単に慣れすぎてしまっただけなのかもしれない。
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