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確かに、真琴も姉のことは心配していた。
記憶の中にある姉は、あんなに沈んだ人ではなかった。少しわがままなところもあったものの、それでも、年相応の豊かな感情を持っていたはずだ。
だが今の彼女には、かつての面影もない。第一志望にしていた学校の合否発表、あの日から数ヶ月が経った今でも、目に光は戻っていないのだ。
「・・・・・・今の姉さんは、まるで人形みたいだ」
ぼそりと、真琴は独りごちた。
生ける屍というよりも、脳を何かに巣食われた生者だ、あの姉は。真琴はそう思った。そして、彼女を巣食っているのは──
「やっぱり、無駄だったのか・・・・・・あんなに手間ひまかけて、金も大量につぎ込んだのに」
ため息をつき、頭を手で支えながら父がぼやいた。その顔に苦悩の色が濃く滲み出ているのは、見ずともわかる。
姉は高額な塾に通っていた。部屋にあった大量の参考書や問題集を買う費用も、両親の財布から出していたに違いない。
とはいえ今は、その参考書の山も、姉の部屋の隅で埃をかぶっている。
姉の大学合格のために両親が背負った負担は、そう軽くはない。それがすべて無駄になったのだ。総額とかけられた労力が全部でどれほどになるか、誠にわかるはずもなかった。
母が怒り心頭に発するのも、理解できないわけではなかった。
沈黙の時間が流れた。何か言葉を交わすでもなく、各々で姉の将来を心配するだけの虚しい静寂。その奥に、姉のすすり声がかすかに聞こえていた。
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