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どれだけの間、ぼうっとしていたことだろう。真琴がふと気づいて顔を上げたときには、既に雨はあがり、窓の向こうには日がさしていた。
自分の手によって、誰かが生まれる悦び。
もっとこの感情を味わいたい。そんな欲望がどこからともなく溢れ出てくるのを、真琴は感じていた。
どうすれば、いいだろうか。
「・・・・・・あ、もしかしたら」
ぼそりと、真琴はつぶやいた。脳内に、ある残酷な発想が思い浮かんだ。
***
その時真琴は、スリッパを叩きつけるようにこちらへ向かってくる足音を聞きつけた。音からして、母だろうか。
「悪いけど、今日の夕食頼むわよ」
部屋の前で立ち止まり、母は真琴にそう声をかけた。
慌ててスマホを取り出し、時間を確認する。既に6時を過ぎていた。
そろそろ夕食の準備をせねばならない。今日の母は一段と不機嫌そうだった。恐らく大半の家事に手をつけていないだろうし、やる気もないに違いなかった。
「真琴!はやくしなさい!」
母が、再度金切り声をあげた。あまりもたもたしていることはできないだろう。これ以上機嫌を損ねたくはない。
「今行く」
声を張り上げて返事をすると、真琴は一瞬だけパイナップルセージの芽に視線をやった。
また、あの感動を味わうことができる日が来るだろうか。
あるかもしれない儚い未来を想像しながら、現実に戻るドアを開けた。吹きすさぶ冷風に当てられたように、思考が一気に現実に引き戻される。
まだ淡い夢に包まれたまま、真琴は部屋を出ていった。
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