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パイナップルセージが芽を出してから、数日後のことだった。
真琴は、自室の椅子に座り、机の上に置かれた植木鉢をぼんやりと見つめていた。
手元は見ない。明日までに提出しなくてはならない数学の宿題が、空白のまま開いた状態で置かれている。苦手な教科からの現実逃避だった。
今夜は徹夜するつもりだ。自室のドアを閉めて閉じ籠り、外に明かりが漏れ出さないよう、机上の電気スタンドのみを点灯させている。
その明かりだけを頼りに、先日生えた芽は黒い土の上に燦然と輝き、若い新緑の息吹を感じさせていた。
少し前までは土の中に眠り、地上に、人にその姿を見せることのなかった若葉。今は頭上の白い照明の光を受け、その艷やかな形を惜しげもなく晒していた。
「一週間前までは、ずっと土の中にいたってのになぁ」
真琴は顎をシャーペンのノック部分でつつきながら、つぶやいた。
時の経過とは、素晴らしくもあり恐ろしくもある。汎ゆる成長も衰退も、生きることも死ぬことも、その存在の不可避を、時間という大きな渦に握られている。
時間が経つからこそ生物は生きる。新たな生命が芽生え、赤ん坊は産声をあげ、鹿の子は立ち上がり、シダ植物は胞子を巻き、サルビアは芽を出す。
決してあり得ないが、もしも時が止まれば、全ての物事は止まる。生物には生も死も与えられず、ただそこにあることだけを強いられるだけだ。
「綺麗だな・・・・・・」
三角関数のグラフが印刷されたプリントに肘をつき、真琴は、うっとりと夢見心地でつぶやいた。
もう、これで何度目だろう。いったい何の余韻に浸ってそこまで陶酔しているのか、分からなくなってくるほどであった。
不意に部屋のドアがノックされた。ふと我に返り、真琴は顔をあげてドアの方を見た。
控えめな音に思い当たる家族と言えば、ひとりしかいない。
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