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「どうしたの、姉さん」
ドアを開けると同時に、真琴は呼びかけた。
姉の黒い瞳が、じっとこちらを見ている。梳かされていない髪が小柄な顔をさらに隠し、白い肌をいっそう引き立たせていた。
まくられた部屋着の下から、無数の傷跡が見えていることもあいまって、いっそうある種の不気味さをまとっている。
「姉さん?」
姉が自分の部屋を訪ねてくるのは、珍しい。初めてではなかろうか。
部屋の入口で立ち止まったままの姉を、真琴はもう一度呼んだ。
「・・・・・・真琴」
掠れた声を発するやいなや、姉は真琴の肩を掴み、押し倒すかのようにして室内に強引に踏み入った。意外に力が強く、振りほどくことが出来ない。
家族とはいえどもさすがに危険を感じ、真琴はとっさに抵抗した。姉の肩を同時に掴んで、力ずくで引き剥がそうともがく。しかし足の裏が畳で滑り、どんどん背後へと押し流されていった。
「姉さん、ちょっと──!」
言葉での静止は効かないようだった。姉は無言のまま、真琴を地面に倒そうと腕に力を込めている。ついに背中が椅子にぶつかり、真琴はバランスを崩した。
そのまま仰向けに倒され、激痛の走る背中から床に叩きつけられる。後頭部が畳に沈み込んだ直後、机のそばから引き離された椅子が床に倒れた。
勢いよく畳に背中を打ち付けた拍子に、真琴は一瞬息を詰まらせていた。ひどく息があがっていた。
「私を、綺麗に殺してちょうだい」
髪を振り乱して真琴の肩に指を食い込ませ、姉はしわがれた声でそうささやいた。
青痣の浮いた太ももが真琴の足にスウェット越しに擦り付けられ、大きく空いたシャツの胸元からは、色白の谷間が薄暗がりの中にぼんやりと浮かび上がっている。
しなやかな肢体が、真琴を押さえつけていた。
真琴は呼吸も忘れて、自分の上に馬乗りになった姉を見上げた。
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