4:姉の願い事

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「ちょっと待って」  姉の肩を掴み、真琴は声を絞り出した。無表情な姉の顔が、ぐらりと揺れた。 「待って、姉さん・・・・・・ダメだ。そんなこと」  大きく肩を震わせて呼吸を繰り返しながら、真琴は手を震わせた。体が震えているのを自覚していた。  視界がぼやけている。水滴が頬を伝い、止まらない。 「真琴・・・・・・なんで泣いてるの」  姉の声が、ぼんやりと耳に届く。死を望む彼女の懇願に、殺してほしいと願う彼女の言葉に、自分では答えてやることは出来ない。  なぜなら── 「やめて、姉さん。僕にそんなことを頼まないでよ、今の僕に・・・・・・まだなんの準備もできてないんだ、」  その言葉に、真琴の肩を掴む手がわずかに緩んだ。心なしか、姉の両眼の奥が少しばかり明るくなったような気がしなくもない。  姉の細い手首を両手でそっと包み込み、真琴は片方ずつ彼女の手を剥がしていった。  姉の体の下から抜け出してよろよろと立ち上がった。ぎこちない動作で、姉は畳に腰をおろした。  心臓の奥まで突き抜ける、2つの暗い硝子球。それが真琴の目を貫いた。 「・・・・・・準備するから待ってて。必ず、綺麗に殺してあげる」  ささやき声にわずかな悦びを滲ませて、真琴は硬い笑みを浮かべた。視界の隅に、発芽したパイナップルセージの芽を捉える。  放置された壊れかけの人形のように、破れそうな一枚の絵画のように──姉は、なんの反応も示さなかった。  
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