4:姉の願い事

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「準備、できたよ」  必要なものを隠し持ったまま、真琴は部屋に戻った。後ろ手にドアを閉めると、少しも動いた様子のない姉を見つめた。 「・・・・・・殺してくれる?」 「ああ」  そう答えるが早いか、真琴は利帆の体を抱き寄せ、持っていたガラス瓶の中身を彼女の口に注ぎ込んだ。飲ませたのは、ガラス瓶に入った透明な液体だ。時折光の当たり具合によって、水色の煌めきが現れている。  水よりもさらりとした真珠色の液体が、姉の口内に泳ぎ入り、喉を通って体内を満たしていった。  青白かった顔が宙を仰ぎ、手足が痙攣を始めた。意味のないうめき声が、悲鳴のように低く漏れている。真琴は片手に持っていたガラス瓶が空になると、それを後ろに放り捨てた。  白み始めた空の向こうに昇る朝日が、ガラス瓶を通して、白光を室内に降り注がせた。  瓶の落ちる鮮やかな音が、真琴と利帆の背後に音高く響いた。 「さよなら、姉さん。あなたはもう、ただのサイトウ リホだよ」  静かに真琴はささやいた。  腕の中で、目を剥き泡を吐いて痙攣する姉を、よりいっそう強く抱きしめる。激しい息が、不規則にぜえぜえと室内の空気を震わせている。  真琴が飲ませた液体は、「姉」を殺す薬だ。  飲んだ者の神経と脳に影響を及ぼし、完治不可能の記憶障害を及ぼす劇薬。ひとたび摂取すれば、海馬や前頭葉を中心に悪質な障害を残すのが特徴だった。  酷い場合には、今までの記憶をすべて失い、斎藤 利帆という人格そのものが封じ込められてしまう可能性もある。  そのための、薬だった。  
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