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ようやく、ドアが開かれた。極力静かにドアを動かし、姉はその隙間から廊下へ出てきた。
一瞬だけ、ボリューム調整のつまみをいじったかのように、怒鳴り声が大きくなる。しかしそれも、音もなく閉まったドアの向こうに閉じ込められた。
ヒステリックな喚き声は、追いかけてくることはなかった。
「姉さん、だいじょうぶ?」
姉は、目を腫らしている。気のせいか、隈が浮かんでいるようにも感じられた。
ボサボサの髪の隙間から覗く目元は、泣いていたかのように見えるが、濁った瞳には悲しみの色ひとつない。
真琴の問いかけに答えることもなく、姉は真琴の脇を通り抜け、廊下の向こうにある自室へ歩いていった。
視界の隅に捉えた姉の後ろ姿は、まるで幽霊みたいに儚く、今にも消えてしまいそうだ。生気を失った彼女に口先だけの慰めしかかけられないまま、真琴は、悶々とした気持ちを抱え続けていた。
***
真琴は、自分の部屋へ戻ると、大きくため息をついた。
家の中で安心して息を吐けるのは、ここだけだ。母が支配するキッチンや居間では、もうくつろぐことすら不可能に近かった。
6畳間の部屋に入ったときに真っ先に目につくのは、ドアの対角線にある大きな窓と、その真下に据え置かれた勉強机だ。机上にぽつんと置かれた小さなプラスチック製の植木鉢からは、まだなんの芽も出ていない。
年季の入った机の隣には、壁に沿うかのようにして、こぶりな本棚が据え置かれている。
ずらりと並ぶのは、どれも教科書や参考書、辞書といった勉強に関する本ばかりだ。娯楽のための本や漫画本は見当たらない。姉のお下がりが詰め込まれた、堅苦しい本棚だった。
来年は自分も受験生だ。姉の二の舞いにはなりたくないが、恐らく、自分に母親の「矛先」が向くことは少ないだろう。
そんなことが予想できる自分が、わずかに腹立たしかった。
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