35人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
地下室は、広い物置として活用されているようだった。
着古したセーターに破れた手袋、濡れた紙袋、大量の不要書類。
押し入れに押し込むには古すぎて、捨てるには多すぎるがらくたが、空いた空間を埋めるようにところ狭しと詰め込まれていた。
だが、真琴にはわかっていた。この大量の物は全て、本当に保管したい物を隠すためのカモフラージュなのだということを。
昔に一度だけ、両親がこの地下室へ続く扉を開けているのを目撃した。恐らくここに仕舞うのであろう物を、隠すようにして手に持っていたのも。
その、持っていた物というのが──
「あった」
透明なガラス瓶だ。中には透明な液体が入っている。スマホの光にかざしてみると、光の反射のせいか、時折明るい空色が浮かび上がった。
これだ。人の脳に影響し、海馬へ多大な悪影響を与える劇薬。昔、自分が見たガラス瓶の中に、この液体が入っていた。
「俺の昔の記憶が薄いのも、これを──」
ささやくと、真琴はガラス瓶を目元まで持ち上げた。
この薬を飲めば、姉は死ぬ。斎藤 利帆という人格ごとなくなってしまう。
なぜ、そんな物がこの家にあるのか。
──4年前、父がネットで秘密裏に入手したから。
なぜ、そんな違法にも等しいことをしたのか。
──そうするべきだったから。
なぜ。
──そうしなければ、やがては取り返しのつかない事件が起こるであろうことが、分かっていたから。
最初のコメントを投稿しよう!