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5:泡沫のように
時刻は真夜中だった。時計の長針と短針がちょうど重なり、新しい一日が始まる。
暗い自室の中で、彼はパソコンの画面を食い入るように見つめていた。疲労と睡眠不足で血走った目がギラギラと見つめるのは、薬品の写真がずらりと並んだホームページだ。
一見、ただの薬品販売サイトに見えなくもないが、その実そうではない。
そのサイトに表示されているのは、日本では輸入が制限されている劇薬や取り扱いに危険が伴う薬品、所持することが法律で禁止されている薬物など──つまり、日の光を浴びることのできない、そういうサイトだった。
もちろん彼も、このサイトに自らアクセスすることの危険性を理解していた。
ウイルスへの感染、個人情報の漏洩、そして裏社会との関わり。
そのようなものとは、今まで無縁だった。これからもそうあろうとしていた。
しかし、もうそれも難しい段階に来ていたのだ。
──お宅は、子供にいったいどういう教育をしてらっしゃるんですか。未成年だからまだしも、もう少し大きければ警察に通報してましたよ。
近所のある夫人からそんな電話がかかってきたのは、2日前の夕方ごろだった。
遠方への用事でしばらく留守にしており、真夜中に帰ってきたらしい。なにやら騒がしいと庭を覗いたら、飼っている犬が子どもにひどくいたぶられていたのだという。
すぐに子どもを愛犬から引き剥がしたものの、動物病院につれていく間にまた暴れられては構わないと思ったそうだ。
本人から半ば無理やり聞き出した親の電話番号に、急いで連絡をしたと言っていた。
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