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彼の目が止まったのは、画面の下の方に表示されていた青色の薬品だった。
真珠色の液体がガラス瓶に入れられている。隣に表記された効能は、海馬をはじめとする記憶の蓄積器官への強い悪影響による、人格の崩壊と記憶の喪失。
──手間取っていた証拠隠滅も、これでラクラク。都合の悪い人材だって、これを飲めば綺麗さっぱり、新しい人生を歩み出せちゃう!
添えられた紹介文は、物騒の一言に尽きるものだ。しかし、綺麗さっぱり、新しい人生という単語に彼は惹きつけられた。
他のものと比べて、値段も手頃だ。即効性な上に素手での接触も安全、長期間の保存も可能だというこの薬品が意外に低価格なのは、ひとえにその量が2回分しかないからという理由らしい。
写真をクリックして商品説明のページに飛ぶと、今の所有者からのコメントが閲覧できた。
この泡、すごくいい。扱いやすいし保管も楽だし、変えたい人がいるなら本当におすすめ。一口飲ませるだけでそいつの人生終わって、新しくスタートしまーす。
冷静に考えれば、イカれたコメントだ。しかし、こういった物を彼は求めていたのである。
「泡っていうのか・・・・・・良い名前だ」
水に浮かんだ幾重もの泡が、やがては消えゆくように。娘の凶暴さも、これを飲ませれば、泡沫のように儚く消えてなくなってくれるのだろうか。
彼は暗闇の中で薄く微笑むと、その薬品のページの最下までスクロールし、「商品を注文」のボタンをクリックした。
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