5:泡沫のように

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 幼い頃、真琴の姉は──サイトウ リホは、柴燈(さいとう) 里歩(りほ)だった。同じ読みを持つものの、その実は違う家族、柴燈家の長女だった。  しかし、里歩の両親が事故死してから、彼女は帰る家をなくした。  そこで里歩を引き取ったのが、親戚であった真琴の両親だ。親を亡くした少女を哀れに思っての決断だった。  だが真琴の父母は、やがてその判断を後悔することとなる。  里歩は、凶暴な一面を持つ子だったのだ。気に入らないことがあれば同年代の友人にも暴力をふるい、それが大人であっても従うことはなく、楯突いた。  普段はおとなしいからこそなおさら、その暴力性は目立つ。  一時は肉親を失ったショックだと診断されたものの、やがてその言動は、彼女が成長していくにつれてよりいっそう、エスカレートしていくことになる。  始まりは、そう小さな出来事ではなかった。  通りすがりに自分に向かって吠えただけの犬を、里歩は激しく嫌悪した。その日の夜、件の犬の元へ赴き、酷く痛めつけたのだった。  無関係な動物を虐げたこの事件により、ついに里歩は、「残忍性を秘めた非常に警戒すべき少女」というレッテルを貼られることとなる。警察の保護下にでも置ければ良いのだが、親戚から善意で引き取った少女ともなればそうはいかない。  しかし、里歩がこっそり真琴を連れて街にでかけたあの日、彼女は自分より強いであろう男数人に怯むこともなく飛びかかった。  運のいいことに、彼らの頭と思われる青年の冷静な判断により、里歩たちに危害が及ぶことはなかった。しかし、相手が誰であろうと暴力という手段に真っ先に訴えようとする彼女の性格を顕著に示す出来事だった。
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