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手足の末端の感覚がない。激しく脈打つ心臓の拍動だけが、真っ白になった頭の中で強い警報を鳴らしている。体の真ん中に穴が開いていて、その内側の壁が、隅々までざらついた手に撫でられているようだ。
近づいてくる足音が、死神の歩行にも等しく思われた。
「おい、お前ら」
もう一度、低い声が──今度は、すぐ真後ろで聞こえた。耳元にかすかな息が当たり、聞いたことのない金属音が静寂を震わす。
真琴の頬を、涙が伝い始めた。姉に握られた手が酷く震えていた。口を開くことさえ、この恐怖の前ではためらわれた。その時だった。
「私と弟は迷子になってただけ。この街には初めて来たのよ、ここがあんたらの縄張りだなんて、知ってるわけがないじゃない」
姉の挑発的な言葉に、一気に背筋が粟立った。隣に立つ姉が真琴の手を離した途端、真夏だというのに、まるで厳冬のような冷気が真琴の全身を包んだ。
「姉さ──」
真琴が思わず振り向いて声を発すると同時に、真琴の隣に立っていたはずの姉は、黒服を着た男たちに飛びかかっていた。
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