5 一問一答

1/1
前へ
/23ページ
次へ

 5 一問一答

「新しいことが生まれない、つまりどっかの村で赤ん坊が生まれなくなったような状態、ってことだな」 『そうなるかと思います』 「赤ん坊が生まれなくなった村ってさ、つまり、いつかは誰もいなくなるってこと?」 『そうなる可能性があるかと思います』 「それ、えらいことになるんじゃないの?」 『そうなる可能性が高いと思います』  トーヤ、ベル、アランの問いに順番に光がそう答えた。 「新しい命を生み出すことができなくなった、そういうことなんですね?」  今、まさにその体内に新しい命を育むリルが、確認するようにそう聞いた。 『その通りです』 「それは、一体どうすればまた動くようになるんですか?」    やはり自分も子の親であるダルがそう聞く。 『眠りを覚まし、もう一度この世を動かすことです』 「そのために千年前の託宣があり、先代が、黒のシャンタルが生まれたということではないのですか?」  今度はミーヤだ。八年前の出来事に深く関わった侍女だからこそ、何よりもそのことが気にかかる。 『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』 「それな。その返事が一番めんどくさい」  トーヤが難しい顔でそう言う。 「関係あるのかないのか、はっきり言えねえかな」 『それは一部のことであり、全てではありません』 「一部のこと?」 『その通りです』 「つまりこいつが」  トーヤが隣にいるシャンタルの右肩に左手を乗せた。 「黒のシャンタルが生まれたことと、この世界が眠ってるってことは一応関係はあるってことだよな?」 『その通りです』 「関係はあるが、俺らが今、自分の身の上に降り掛かってる問題を解決したからって、その世界が寝てるって問題が全部解決するわけじゃない、っていう風にも聞こえる」 『その通りです』 「けど、こいつの存在が、世界を起こすことのどっかには引っかかるってことか」 『その通りです』 「うーん……」  トーヤが腕を組んで考える。 「ってことは、今はその世界のことってのは、俺らが考えてもどうにもならねえってことでいいか?」 『それは……』  光が少し考える。 『ええ、それでいいかと思います』 「なんだよ、えらく自信なさげだな。あんたの目にはずっと先、千年前から今のことが見えてたんだろ? だったらそのぐらいの返事してくれてもよさそうなもんだけどな」  トーヤの言葉にも光は何も答えない。 「あれか、言えないことには沈黙かよ」 『勝手な言い方であることは分かっていてお願いをするのです。今はこの国を、シャンタリオを、シャンタルの神域のことだけを考えてください』 「なんだって? ほんとにそりゃまあ、勝手な言い分だな」  トーヤが目を丸くして驚く。 『今、この時において、空気が流れないこと、その世界が眠りにつくことについて、一番よく知るものはわたくしなのです。神域を作り、その世界を閉じた。その影響を一番よく知っています』 「なるほど、なんとなく分かったような気がする」 「ど、どういうこと?」  ベルがトーヤに聞く。 「つまりだな、二千年前、この方はこの地を閉じたわけだ。慈悲ってので満たしてな。そしたらたった十年で具合が悪くなってきた。そうすることでどんなことがあるか、それを自分の身でもって知ったってことだな」 「そういうことなのか」 「そういうことでいいのか?」  トーヤが一度言葉を止めて光に確認する。 『それでいいのではないかと思います』 「うん。そんじゃまた俺の考えの続きになるが、違ってたら違うって言ってくれ」 『分かりました』 「それでだな。今度は千年前に、今度は閉じた神域だけじゃなく、もっと広い世界ってところで同じようなことが起きた。なんでか分からんが世界が閉じたような事件が起きた。そんでいいか?」 『それでいいのではないかと思います』 「よし。そしたらだな、この神域はどうなる?」 「ど、どうなるって?」 「うん。女神様に閉じられた上に、今度は世界にも閉じられた。つまり二重に閉じられたわけだ」 「ええっ、そりゃ大変じゃねえかよ!」 「だからその話をしてんだよ」 「いてっ!」    トーヤがいつものようベルを小突く。 「だからまあ、世界ってのをなんとかする前に、まずはここをなんとかしろ、つまりはそういうことでいいのか?」 『その通りです』 「あんたはそのために千年前にさっきの託宣をやらせた。そしてそのために黒のシャンタルをこの世に生まれさせた。さて、話は戻った。それはなんでだ?」 『それは』  また光が一瞬言葉を止めたが、 『わたくしの力を全て受け継ぐためです。そのために通常のシャンタルとは逆である者が必要でした。マユリアと二人でその全てを受け継ぐ為に』 「なんだと?」 『通常のシャンタルと対となるためには、逆の力を受け入れることのできる存在が必要だったのです。その象徴としてその容貌となり、そして男性として生まれてきました」 「ちょっと待った!」  トーヤが何か言う前にまたベルが疑問を口にする。 「シャンタルが黒の反対で銀色の髪、白の反対で褐色の肌、女の子じゃなくて男の子に生まれたのはなんとなく分かった。じゃあ目は? なんで緑なんだ?」 「そうだな、俺もそれは不思議だと思った」  シャンタルの深い深い緑の瞳。それだけは反対の者では説明がつかない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加