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どのくらい経ったのだろうか。
とてつもなく長く感じたが、おそらく数十秒もかかっていないのかもしれない。
すさまじい倦怠感に、起き上がることができなかった。
生霊をうまく飛ばせたのだろうか。
ナイフを持った藤白が、菜月の元へと近づいてくる。
絶望の中、藤白の背後に、もう一人何者かの存在を感じた。
向こう側が透けてしまいそうなくらい、薄い影のような存在。
目を凝らすと、女の子が立っていた。
藤白を見つめるその少女の目は、とても悲しそうであった。
あの子、桜花さん!
その少女の顔を確認した菜月は目を見開いた。
「待って、後ろに桜花さんがいる!」
しかし、桜花の名前を出したことで、かえって藤白を刺激したようだ。
「黙れ!」
怒りに顔を真っ赤にしながら、藤白はナイフを持つ手を大きく振り上げた。
もうだめ……。
パパ、翔流くん!
その時であった。
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