0人が本棚に入れています
本棚に追加
とある田舎にある村。言葉は悪いが辺鄙という単語そのものの片田舎で蛟は生まれた。
両親と三人暮らし。父にやや厳しさを覚えるがそれ以外は変哲もない普通の家庭で、特に不自由もなく育った。また人間関係も良好で、まるで不幸や悩みなどとは無縁のような充実した日々を送っていた。
だが蛟が十二になった頃、それは脆くも崩れ去った。母が流行病で亡くなったのである。
以降、蛟は父と二人暮らしになるが父は妻を亡くした喪失感からか、急に人が変わってしまった。
以前は教鞭を執り教育に熱心な規律正しい厳格な人柄であったが、仕事を辞め昼間から酒を煽り、まるで破落戸のような厄介者へとなってしまったのだ。
食事の支度もろくにせず自分だけ出歩き、次の日になっても帰ってこない時が多々あった。
蛟は家から出る事も叶わず、ただ父の帰宅を静かに待っていた。勝手に出歩くと泥酔した父が何をするかわからなかったからである。
しかし父は帰宅すると、まるで蛟がそこに居ないかのように一人酒を呑む。当然食事はない。
蛟はただ大人しく父の目に届く範囲に座り、父が寝るのを待っていた。そして父が眠りについた時、父が食べ残した酒の肴を食らい空腹を凌ぐ毎日であった。
最初のコメントを投稿しよう!