五章 キラキラのレモンスカッシュ

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* * * *  給食が終わってすぐに、美晴は意を決して勝利のクラスまでやってきた。早く行かないと、悠介を誘おうとする勝利に先を越されてしまう。 (ここでためらっていたら意味がない!)  開いていたドアから中を覗き込み、勝利の姿を見つけた美晴は、すたすたと教室の中へと入っていく。  机に敷いていたランチョンマットを片付けていた勝利の前に立つと、 「ちょっといい?」 と、彼の顔をじっと見ながら声をかけた。  驚いて美晴を見た勝利だったが、プイッと顔をそらすと、何事もなかったかのようにランドセルが置いてある教室の後ろの方に歩いていく。 「クラス違うだろ。早く戻れよ」 「山口だっていつもうちのクラスに来るじゃない」 「でも教室には入ってないだろ」  すかさず勝利の後を追うが、その時に彼のクラスメイトたちからの声が聞こえてきたため、美晴は一瞬固まってしまう。 「なんで違うクラスなのに、堂々と教室に入ってくるわけ?」 前に陰口を言われた時の記憶がよみがえり、いつものように口を閉ざしてしまいそうになった。 「しかも山口くんになんの用? まさか山口くんのこと……⁈」  なんの用ーーそう言われて、ようやくここに来た意味を思い出す。 (私はただ話をしに来ただけじゃない。別に悪いことはしてないしーーまぁ勝手に違うクラスに入ってるけどーーひるむことはないよね)  すると不思議と心は冷静さを取り戻していく。 「山口の言う通りだわ。女子ってすぐにそっち方向に持って行きがちね」 「今それを言うなよ。まぁ同感だけど」  先ほど梨々香に同じことを言われた時は、こんなイヤな気持ちにはならなかった。話し方でこれほどまでに印象が変わることを、初めて知ったのだ。 「やっぱり田村さんは特別なのね」 「はっ? なんで田村さんが出てくるんだよ」  ポツリとつぶやいてから、勝利の方に向き直る。人が見ていたってどうでもいい。自分の決意を伝えるだけだ。 「山口が私をどう思っているかは知らないけど、私はあんたのことを……同志だと思ってる。そういう人が一人でも近くにいたら、心強くない? 私はすごく嬉しかった。だから絶対に言わないし、むしろ分かち合いたい」 「同志?」 「そうだよ。今日はそれだけ言いたかった」  一人じゃないんだと伝えたかった。勝利がいれば自分自身も一人じゃないと思えたことを知ってほしかった。 「じゃあまたね」  何かを言おうとしていた勝利に片手をあげて挨拶すると、美晴はダッシュで教室を飛び出した。  胸がドキドキしていた。言いたいことをきちんと口に出したのはいつぶりだろうーー美晴の心はすがすがしく晴れわたっているようだった。
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