おいでよ♡喫茶オーエン堂

1/1
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 緑豊かな花咲(はなさき)町には、とても大きな花咲公園がある。  休みの日になると、広場では家族連れがたくさんやってきて、テントやシートを広げてお弁当を食べては、ボールやバドミントンなどで遊んでいた。  園内の風車のまわりには花畑があり、季節の花々を楽しめるし、流れる小川沿いは、夏になると水遊びをする子どもたちで溢れる。  秋には銀杏並木(いちょうなみき)の下に黄色い葉とオレンジ色の実が地面をおおいつくし、時々ギンナンの匂いにしかめっ(つら)になって、鼻をつまみながら歩いたりしていた。  高台から続くローラー滑り台は子供達からは大人気の遊具で、いつも長い行列が出来ていて、楽しそうな声が響きわたっている。その周りを囲むようにたくさんの恐竜のジオラマが並び、その背に乗る子どもたちは大はしゃぎだ。  観察会や散策イベントがよく開かれるこの公園は、ここに住む人たちの憩いの場であり、なくてはならない場所だった。  駅側の入口からは二番目に近い場所にある巨大温室側の入口のそばにあるのが、紅茶やハーブの商品を専門に扱うお店"オーエン堂"。まるで人形のお家のような茶色の屋根と、淡い黄色の壁。木枠の窓の中はレースのカーテンが風に揺れている。  お店の黄色に壁にはツタの葉っぱが絡みついて、まるで森の中にあるように思えた。茶色い木の(とびら)の右上には『ハーブと雑貨と占いのお店 オーエン堂』と書かれた、少し古ぼけた木の看板がかかっている。  そして扉の真ん中にある窓ガラスの右下には、『どうぞお気軽にお入りください。あなたにぴったりのものをお探しします』と書かれた小さな紙が貼られていた。  扉を開ければ優しいベルの音が響き、心地良い香りがお客様を招き入れてくれる。  チリンチリーン  ベルの音が鳴り、お店の扉が開く。ドアのすぐ正面には数種類のケーキが並ぶショーケース。その右隣には小さな部屋があり、いくつもの焼き菓子とたくさんの雑貨が壁際を囲むように立つ棚に置かれていた。 「いらっしゃいませ、オーエン堂へようこそ」  栗色のふわふわの髪にメガネをかけた四十代くらいの男性が、カウンターの中から優しい笑顔で声をかけてきた。 「あら、いらっしゃい。何か聞きたいことがあったら声をかけてね」  店の奥から現れた女性は、ふんわりとした茶色の髪が印象的な、まるで"魔法使い"という言葉がぴったり合うようなおばあさんだった。  店の美しいドアベルが鳴るのと同時に、扉から可愛らしい女の子が現れた。 「あら、お客様?」  黒髪のツインテール、黒いフリルのガーリーなワンピースの女の子はにこりとほほ笑むと、お店の正面からは想像もつなかい、ガラス張りの明るい店内へと案内する。 「こちらのお席にどうぞ。ではお客様にぴったりなものを一緒にお探ししましょう」  そう言うと女の子はお店の奥へと消えていった。  さて、本日のお客様のぴったりな商品とはーー?
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!