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一章 ストライプと黄色い猫
朝の会の時間。森本先生の話を聞いた生徒たちは、突然ザワザワし始める。いつもポニーテールにジャージ姿の先生は、明るく元気で教室の後ろまで声がよく通る。教師になってまだ二年目の森本先生だが、子どもたちからは『怒ると怖い先生一位』と言われていた。
「はいはい、静かに! みんなびっくりしたと思うけど、田村さんのお引っ越しまではあと一週間あるから、楽しい思い出をたくさん作っていきましょう!」
それでもクラスの子たちはおしゃべりが止まらない。当の本人である田村梨々香は、まわりの友人たちに話しかけられるたびに、眉を八の字にして困ったように笑っていた。
そこに先生の大きな声が響き渡る。
「話したい気持ちはわかるけど、それは休み時間にしましょうね! じゃあ朝の会は終わり! 一時間目を始めますよ」
「はーい」
子どもたちは文句を言いながらも、机の中から国語の教科書とノートと筆箱を取り出し、日直の掛け声とともに立ち上がると、大きな声で挨拶をした。
鈴本美晴は廊下側の一番後ろの席から、梨々香の様子を観察していた。
窓際の前から三番目。肩より少し長めの髪をハーフアップにして、元気がなさそうに水色のポロシャツの肩を落とし、どこか悲しそうな表情をしている。教科書を開く手もゆっくり動き、筆箱からえんぴつを取り出した途端、小さなため息をついたのだ。
(さっきお父さんの仕事の都合って言ってたし、うちの学校にだって、昨年転校してきたばかりなのに。きっと田村さんは転校はしたくないんじゃないかな)
梨々香は黒板の方を見ているものの、手はほとんど動いていない。しかしその時、彼女の目だけがゆっくり動き、隣に座る関根悠介をチラッと見た。
広げた教科書を両手で持ち、顔の半分を隠しながら、美晴は瞳をぐるりと一周させる。
(おやおや、これはもしかして……転校したくない……心残りがある? 友だち? 先生? それとも……好きな人?)
それからすぐに窓の外の方に視線を移したが、恥ずかしそうに背中を丸めた梨々香の様子から、美晴の頭はピンとひらめくものがあった。
まるでゴスロリ系のような黒のフリルの衿がついたワンピースは美晴の特徴で、大のお気に入りのファッションだった。
ツインテールと大きな瞳を揺らしながら、人差し指で鼻をトントン叩いてから目を見開く。
(ふむふむ、なるほど。なんだかちょこっと見えてきたかも。心に広がる甘酸っぱいこの感じ。あぁ、きっとそこには"恋"があるに違いない!)
美晴は梨々香と悠介を交互に見ると、にこりと微笑んだ。
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