#1 再起動

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おそらく小学生の言っている『お姉ちゃん』は 高校生ぐらいなんだろう、きっと。 この際理由を説明しておこうと思い 「それは……えっと……」途切れ途切れに言葉を発していり最中、 どこか遠くから「本当に死んでんのかよ!」と 若々しい聞き覚えのある声がわずかながら聞こえてきた。 言いかけていた言葉を途中でとめてから声のした方向を見てみると、 猛スピードでやや道路から斜め前へずれていっている 運搬用と思われるトラックと運転席のあたりで 必死に呼びかけているメガネをかけている やせ細った男性――三並先輩の姿が映りこんできた。 男子小学生に不思議に思われながらも急いで立ち上がってバイクを 三並先輩がいる交差点のあたりまで走らせた。 「いい加減とまれよ!」 何度か強く運転席の窓ガラスを叩いてみたものの、 運転手は反応をみせない。このままだと、 おそらくこのトラックは歩道に乗りあげてしまうだろう。 進行方向はハンドルが握られていないせいで 少しずつ歩道に近づいてきている。 そして、ブレーキもかけずに交差点の端にある 電柱に真ん前からぶつかって、後ろにあった何本かの 同じ電柱もなぎ倒していき、歩道に半分ほど乗り上げたところで停止した。 歩道に乗り上げたあたりからは少し距離をとっていたが、 トラックが倒れた電柱に押しつぶされながらも止まってくれたので ようやく運転手の顔をちゃんと見ることができた。 運転席の中にいる男性は電柱二本もぶつかったせいかぐったりとしていた――いや、ぐったりとという言葉では表現し切れない。 気絶しているのか目を開かずに座席への座りかたは だいぶバランスを崩していた。 (他人にかかわって何かいい事なんてあるのか……?) 運転席にいるボサッとした中年男性に声をかけてみたが、 相変わらず反応はなし、だ。 「……おい!寝てるだけなのか?少しは気づいてるだろ」と 念を押してガラス越しの運転手に声をかけてみたが返事はない。 ……やっぱり。 やっぱり。 関わるべきじゃなかった。 「三並さん!避けて!はやく!」 何かとても恐ろしいようなものを見たような視線を向けながら、 いつからか俺の居場所に気づいていた押久保が警告をしてきた。 何でよりにもよって後輩にまでこんなところ見られなきゃいけないんだ。 逃げるんだったらお前のほうが逃げろと言ってやりたいが、 今はトラックのあけているのだが運ちゃんのほうが心配だ。 何度も声をかけているのだが、反応はない。やっぱり死んでいるのか? 他人に関わってもいい事なんて……、いい事なんて。 ないだけだ。 俺がやっとのことで考えをまとめ終えた頃、バイクのハンドルから手は離れて身体は宙に放り出されていた。不幸は連続するものなのか分からないが、 トラックの横を信号無視をした乗用車が走っていたのに気づいたのは 空中に放り出された後の事だ。 前方からぶつかったせいか俺が乗っていたバイクはハンドルがへし折れて、 サイドミラーは両方とも割れていた。 ヘルメットは留め具がないので空中で離れてしまい、 思い切りコンクリート舗装された道に頭をぶつけた。 雪が降っている。 戦隊ヒーローのコスチュームをした誰かが記憶の中の 俺の頭をなでている……。 今と違ってメガネかけてないな。 小学校ぐらいの頃は隣町のやつも誘って『アジト』って感じのグループを 作ってたかな……。 何かで泣いて、誰かの乗った車を見えなくなるまで追いかけて。 (俺は死にかけているのか……死んだのか?) 祭りの手拍子と声が聞こえる……。 いつもお袋にヒーローものの仮面ばっかり買ってもらっていたな。 祭りの時しか買ってもらえなかったから 一番人気があるサブリーダーの赤い仮面しか買ってもらっていなかった かな。 でも、いざ買ってもらったらすぐにつけてたな。 (……これが走馬灯っていうやつか?) (やっぱり他人に関わってもロクなことはねえな。「人付き合い」がそれなりにうまくなるわけじゃないし、周りと比べたらどうでもいい生活を送っているだけだからな) (……どうせ居なくなっても) 雪が、地面に積もるほど降っている。季節は冬だ。 その証拠として遠目に見えるよう学生は首元にマフラーを巻いている。 (……あれ?) 俺は雪道を歩いた先でぼんやりと立っているいびつな顔立ちをした 女子小学生に心当たりがあった。 (確か、あいつは……) うろ覚えの記憶の中からあいつに関する情報を引き出してみる。 部品を細かくつなぎあわせたようないびつな顔が俺のほうを向く。 少しだけ口を動かした。 (……何かを言われて……)
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