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ある晴れた8月の事。俺は何も食べ物を食べていない空腹感からか、
街のはずれにある路地をさまよっていた。
数日前までの雨は日差しに負けたのか一滴たりとも残されていない。
俺は薄暗い路地を歩いていくうちに心に引っ掛かりが生まれ始めた。
俺は一度、ここに来た事がある。
でも、それが一体いつだったのか思い出せない。
それに本当にここにやってきたのか。
証拠もない。
ここは単なる街のはずれにある路地なのでここに一度来ていたとしても思い出せるほど強烈な記憶はのこっていない。
俺は路地の一番端にたどり着くまではそう思い続けていた。
路地を歩いて行った先に何があったのか――その先に何があったのか。
それは思い出したくない。あの路地に入っていなかったら
俺の一生は何事もなく暇をもてあまして生活保護になるか
おとなしく手に職をつけるかの二つしかなかった。
路地の一番最後に置かれていたのは
一つの小さな男子用の黒いランドセルだ。
それを手に取ったとき、重さを確かめてみようとか考えてみたが、
俺は失っていたものを一つ思い出した。
その思い出が何の役に立つのか。
それはまだ分からない。
昭和53年2月13日生まれ。みずがめ座。
今思い出せるのはここまでだ。
しかし、それ以外にももっと有力な情報があるはずだが……、
俺が路地の一番奥にあるランドセルを持ちながら路地から離れようとするとランドセルなくなって目と鼻の先にある路地の壁ははる遠くになっていた。俺はいったんこの場で路地を抜けるべきか考えてみた。
しかし、この路地をどう戻っていったら入り口に戻れるのか分からない。
強制的なわけじゃないが、
俺はこの路地に終わりがあるまで歩き続けるしかなさそうだ。
この路地が最後にどこにたどり着くのかは分からない。
この路地になぜ自分の個人情報が落とされていたのかは知らない。
もしかしたらこの路地で夜も過ごす事になるかもしれない。
その時はその時で対応するしかない。
俺は地面に落ちていたランドセルを右手に持ったまま
引き続き路地を進んでいった。
太陽の光はほとんどビルの陰にさえぎられて届く事はない。
俺はどうして迷い込んでしまったのか思い出せない路地を
ゆっくりと前に向けて進んでいくしかなかった。
地図やスマートフォンは、使えないので
どれだけ歩いているのかは知らない。
幸い、この路地を歩いている間は疲れを感じたりすることはない。
それ自体不思議なことだが。
この路地を歩いている間は休憩などをとる必要はないので
休みなく路地を歩き続けた。
しばらく路地を歩き続けているとまた壁が見えてきた。
どうせまた何か落ちているだけだと思いながら
俺は壁にゆっくり近づいていく。
路地には小物などは一切置かれていないので一本の道しか続いていない。
反対に、この道のどこかに街灯などの光源もないので
夜中になったりすると懐中電灯が必要になるのは当たり前のことだ。
だが、今は昼間なので光源を用意する必要はなく、
わずかに入ってくる太陽の光で道を歩く事ができる。
俺はこの道を歩き始めたころは道に迷っただけだと思っていたが、
やがて時間が経っていくにつれて間違えた道に入っていた事に気づいた。
だが、気づいた頃には路地の入り口に戻ることはできなくなっていた。
俺は事前にスマートフォンや腕時計を持ってきていたが
電波の状態が悪いのか位置や時間を確認することはできない。
なので、どうにかして出口を見つけるために路地を歩き続けるしかなかったのだが――感覚では一時間近くさまよっていても出口が見つかるどころか
どんどん奥に行って迷うことになっていた。
こんなところで道に迷っている暇はないが、
この路地から脱出できない限り、ひたすら歩き続けるしかない。
この路地を歩いている間に時間が過ぎて行っているのかについても
詳しく分からないが……。
俺はこの路地にいる間は何も食べる必要はないし
飲み物をとる必要もない。
この路地を永遠と歩いていても疲れはしないのだが、
同じところを何回、何百回と繰り返し歩き続けていると
同じ光景でも見飽きてしまう。
これからも同じように路地をさまよい続ける――しかも誰のものなのかも
分からないランドセルなどを持って歩き続けるのは嫌だ。
もうそろそろ同じところを歩くのにも飽きてきたころ、
また路地に落ちているものが目に入ってきた。
今度はランドセルほど大きいものではなく
地面にポツリと落ちている感じだった。
しかし、それが何なのかどういう形状をしているかは分からない。
第一にここがどういうところなのかもほとんど分かっていないのだが、
そんな中で同じ道を歩き続ける事自体危険性がある。
しかし、同じような道を歩いているのにも、
ようやく終わりが見えてきたのか、それともまだ続きがあるのか
分からないが路地の突き当りにあたる
小さな壁には一つの名札が置かれていた。
小学生のものかと思われる。
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