#1 再起動

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ソファの近くにある机には一リットルはある炭酸水と 不眠症のための薬、一通の手紙が残されていた。 なぜ炭酸水をおいていったのか――それについては一切理解できない。 でも、俺が不眠症なのだけはちゃんと分かってくれているようだ。 念のため一錠だけ、その場にあった炭酸水で薬を飲んで、 炭酸水のペットボトルで見られないように封がされている 手紙を読んでみた。 おそらく押久保が書き残したのだろう。 読む前にシールで留められていた。 年齢にはそぐわないうさぎの絵がデフォルメされていたシールを はがしてから手紙に書かれている文章を読んだ。 『三並さんでっかいビルの前でぐはーって感じにぶっ倒れてたよ?近くにバイクがあったから送り戻す事はできたけど、あたし無免許だからね?捕まったら捕まったでマンガみたいになんとか救ってよ』と つたない文字で書かれていたのを 見て、ソファの横にあったゴミ箱に放り投げてから炭酸水を ソファの上においてからしばらく休憩がてらソファにてくつろいだ。 仮眠ともいえない睡眠を多少とってから、 控え室の外に出ると鋭い目つきと細い体に無駄に似合う眼鏡をかけた 男性のことを何者なのかといわんばかりに目を向けてくるものが いたのだが、 すぐに視線は収まって通常う通りレジ前にいる客への対応へ戻っていった。前まではあんな目で見られる事はなかったんだけどな、とつい先ほど向けられた彫刻のような視線を思い出す。 でも、どう思われていようが俺には官営ないことだ。 「やぁ。押久保ちゃんに連れてこられたって聞いてたけど、調子は大丈夫か?」背後から中年っぽい男性の声が聞こえた。 声の主は小学生の頃の同級生――柳葉邦彦(やなぎばくにひこ)だ。 肩に乗せられた手をのけてから 「別に俺がぶっ倒れたところでお前には損も得もないだろ」というと 「うん。まぁ、そうだけど……やっぱりあれだね!三並の目は警察に捕まったあとみたいだ!」と謎の皮肉めいた言葉を残してからひげを生やした 30代ぐらいのちょっとはいい体系をした男性は 俺のすぐ横を通り過ぎて行った。 同じ年齢でもここまで性格が変わる事なんてあるのか? 若干疑問を抱きながら国元はもうとっくに外に出てしまったのか 店の中でくつろいでいる様子は見ることがなかった。 やはりここに運ばれてくるまで何をしていたのかについて 思い出せないままだ。証拠となるものは自らの記憶しかないから、 そこまで詮索しなくてもいのだが――妙なひっかかりを感じる。 ものを忘れたわけじゃない、押久保に伝え忘れたことがあるわけでもない――むしろ伝えることなんて押久保のほうが多く思いついていたのだから、俺がいえることなんてないのだが。 急に胸に浮かび上がってきた『Why』を隠しながら、 三並は店の外に出た。店の外は肌を刺すような晴天―。 目を覆いたくなるほどだ。 そして、外付けされている駐車場の右端に南が使っているバイクはあった。俺は急いでスマートフォンをズボンの桶っとから取り出しておき 久保に写真つきで『お前、ちゃんと俺のバイク使っているのか?』と送った。眠気覚ましに近くでランニングとかをしてから 数分後、またスマートフォンを開いてみると 『ちゃんと先輩のバイク使ってるよー、先輩のバイクじゃないと警察に捕まるじゃん』と返信が届いていた。 そのメッセージを確認したとたん、世界が硬直したような胸の痛みが襲ってきた。急いであたりを見渡してみたが今は通勤通学ラッシュの時間帯、 目と鼻の先にある道路を行きかう人の群れに異常はみられなかった。 ひとつ問題があるのするのなら、 今こうして放置されたままになっている白いヘルメットをハンドル部分に ひっかけたバイクのことだろう。 押久保はちゃんと乗っていると答えたのだが、 もしかしたら似たバイクを見つけただけなんじゃないか? 俺は急いでヘルメットに少し凹みがないか確認してみた――中古の品だったので前の持ち主が交通事故を起こした際についた傷だ。 目の前にあるバイクを数分ほど点検してみたところ ちゃんと傷は確認する事はできた。 あとは押久保に会って乗っているバイクが本物なのかどうか聞くだけなの だが――住宅地の中にあるこの店の配送ルートは 穴埋めしていくだけでも膨大な時間がかかる。 ここだけは運任せでいくしかない。 20何通りもある配送ルートとの中から一つを選び終えた頃には 道路を歩くサラリーマン・学生の姿もまばらになってきていた。 俺はハンドル部分にひっかけていた白いヘルメットを着用してから、 この店からは10分もかからない基本的な配達ルートに向かって アクセルを踏み込んだ。 住宅や高層ビルが立ち並ぶ町の中心部、 配送をする時にはまずこのルートが基本的なものだと教え込まれる。 正式にどうなのかは知らない。
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