#1 再起動

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その間に三並はバイクを走らせて異変の黒幕を探しに行っている。 押久保があバイクを停めている店の前で一度バイクを降りてあたりを 見渡してみたが、特にこれといった以上は見つからない。 ここも白だ。 押久保がコーヒーカップ片手に店から出てきたが、 気づかれないうちに店の近くを離れた。 押久保のいる喫茶店を離れたのなら、 今度は日中人通りが絶えることない交差点。 赤信号なので先ほどの男子小学生と同じように 赤信号の横断歩道を渡ろうとする人物はいない。 そして、この交差点もはずれだった。 信号は青だったのでそのまま、交差点の向こうにある 八百屋の近くまでバイクを走らせた。 今のところ疑いがある三つのポイントはどれも外れているので、 残っているのは八百屋を通り過ぎたあたりまでだ。 スピードを落としてのんびりとバイクを走らせていると、 すぐに最後のポイントにたどり着いた。 車の少ない道路とすぐ後ろにある交差点。 そこまで変わったシチュエーションではない。 人の流れは交差点のあたりに集中していて、 すぐ先にある店にはわずかな車しか通っていない。 この道を使うのは俺たち配達系の乗り物とか近所の住人が 散歩に出たときぐらいだ。 それ以外でこの道を出歩いているのは通学路として使っている 学生ぐらいだ。 もっとも今の時間帯はあまり姿を見ることもなくなったので 道路に自動車が通っているだけなのだが――。 俺の近くを通り過ぎていく出来事のどれに異変の黒幕が隠れているのかは 一切分からない。 何の証拠もつかめないまま、 すぐ隣を大型トラックが通過していった。 二回目。 今度は駐車場からではなく、交差点の赤信号を待っているところから 再開した。交差点の先には八百屋などしか立ち並んでいない。 信号が青に変わったのを見て、俺は他の車に負けじとエンジンをかける。 これで、この交差点を通り過ぎるのは今日三回目なのだということは 分かっているのだが、 他にも何か行動をしている最中に戻されたりなんかすると、 バランスを保つのが難しくなる。 二回目もユラユラした運転が安定してきた頃に交差点の様子をうかがってみたが得に以上はなし。そのまま八百屋などのある道に入っても、 何かに誘導されるみたいに進んでいくトラックが通り過ぎたあたりで 戻されてしまった。 三回目。 「またか……」と愚痴をもらしながらも、記憶通りにバイクを運転する。 二回も確認したので、交差点とそれ以前の小学生などは黒幕じゃない事は 分かっている。 (どこに隠れてやがるんだ?) 交差点を通り過ぎたあたりからバイクのスピードを 少し遅くして周りの様子をうかがっていたが、 異変の黒幕といえるものはあまり検討が付かない。 もういっそこのまま無限ループでもしたらどうだ、と思い バイクのスピードを元に戻したところで、すぐ隣を大型トラックが スーッと通り過ぎていこうとしていた。 トラックが半分まで通り過ぎたところで首をのばして ちらりと運転席をのぞいてみたのが功を奏したのか、 トラックの運転席にいる男性は目を閉じて、ハンドルも握らずに 運転を続けていた。 (寝ているのか……?) 驚愕に満ち溢れた表情を隠しながら、 バイクをトラックが通り過ぎないうちに反対車線にUターンさせた。 トラックの速度にあわせるように充分な加速をしてから運転席の男性に 向けて「おい!起きろよオッサン、事故りたいのか!?」と 窓を左手で叩いて起こそうとしたが、反応はない。 なんとか並走しながらこの状況を打破できないか案を練ってみたが、 止まる気配をみせないトラックを 隣にしては思いついた事から試すしかない。 即座に運転席の内部を見てみたが、 やはり目を閉じたまま三並が声をかけている事に気づく素振りもみせない。トラックは走り続けているので、 おそらくアクセルを踏んだまま――眠っているのだろう。 いや、これは。 (死んでいるのか……?) 最悪の事態が脳裏をかすめたが、運転席の中に入ることなんて、 到底不可能だ。 「まだ歩いたら危ないからねー、それまでしりとりしてあそぼうか?」 押久保由衣は寝ぼけたままなのか朝食を食べていないのか――元々なのかは知らないがぼんやりとした目つきの男子小学生が 赤信号を渡ろうとしていたのを見て、なんとか歩道に送り戻したところだった。困ったような顔をしてから『交通安全』と書かれた 小さな旗を持っている小学生は「知らないひとと遊んだら危ないって警察のお兄ちゃんがいってた」と無愛想に答えた。 由衣は若干焦りながら「あたしは危ない人じゃないよ。そこのピザ屋さんでピザ届けてる人だよー」と少し離れたところにあるかもしれない ピザ屋の方向を指さしながら言ったが 「なんでお姉ちゃんみたいな服着ているの?」と怯えられてしまった。 押久保由衣はバイト中にも関わらず 高校の制服を着ている事を再認識させられた。
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