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雨、ところにより、涙
「今日はどんなシーンをやるんだ?」
「ちょっと今話しかけないで。台詞抜けちゃう」
「…………」
「急に黙られるとそれはそれで気が散るよね」
「気難しいお姫様だ」
空木は机に置いた台本を見ながら自分の台詞を呪文のようにぶつぶつ呟く。そして、なんか違うなあ、と首を振った。
難しいシーンなんだろうか。彼女の迷いを表すように、空はこれから晴れにも雨にもなりそうだ。
「練習、上手くいってるみたいだな」
「うん。みんな本気だから」
文化祭を来月に控え、演劇の準備は順調に進んでいた。
舞台セットや衣装も完成間近で、演者の練習もどうやら上手くいっているらしい。良い劇になりそうだ、と監督の学級委員長が言っているのが聞こえた。
「たくさん観に来てくれるといいな」
彼女の呟きはおそらくクラスの総意だろう。
文化祭では各クラスで趣向を凝らした企画が実施され、部活動単位の展示や模擬店など様々な出し物がある。
体育館ステージは目玉のひとつだが、多くの企画がある中でどれだけの人が足を運んでくれるのかはわからない。
「そこで、ひとつ作戦を思いついた」
「なに草凪くん。いつから参謀になったの」
「黒子は何にでもなれるからな」
僕は黒子として細々とした作業をこなしながら周囲の様子を窺っていた。彼女の言葉通り、全員が自分の役割を全うすべく力を尽くしていた。
きっといい作品になるだろう。けれどそれは観てもらえなければ伝わらない。
観客を集めなければ。そのための作戦だ。
あまり大きな声では言えないけれど。
「泣いてくれないか、空木さん」
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