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僕の言葉を聞いて、彼女は台本から顔を上げた。
僕の表情を見て、彼女は冗談ではないと悟ったようだ。
「どういう意味?」
「空木さんが泣けば」
「雨が降る」
「そう。雨が降れば、人は屋内に流れてくるだろ」
うちの文化祭では屋内より屋外の企画のほうが多い。
それらが中止にはならずとも、雨が降れば建物内に避難する人は少なくないはず。
屋内企画に限定すれば、体育館ステージは花形だ。他の企画よりも圧倒的に人が集まってくるに違いない。
「でも雨だとそもそも文化祭に来る人が減るんじゃない?」
「だな。だから泣くのは前クラスの発表が終わってからの転換時がベストだ。そこで雨になれば、きっとみんな体育館に集まってくる。お誂え向きに演目は『白雨姫』で、生粋の雨女。演出的にはむしろプラスだ」
「そっか。なるほど」
「問題は空木さんがいい具合に泣けるかだけど」
僕はそこで言葉を止めた。止められた。
彼女の大きな瞳から、一筋の透明な涙が流れて落ちる。
「大丈夫。私も本気出す」
ぱた、と窓を叩く音がした。
そちらに目をやると、涙と同じ色の水滴がガラスに付いている。
ぱたぱたぱた、と雨粒は次第に数を増やし、気付けば外はすっかり雨模様だ。
「……楽しみだな、文化祭」
「ね」
右手で涙を拭いながら、空木は小さく頷いた。
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