雨、ところにより、罪

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雨、ところにより、罪

「うちのクラス、ステージの大トリらしいよ」 「へえ。最高だな」 「うん。最高だよね」 「つまり観客独り占めってわけだ」 「へ?」  ぽかんと間抜けな表情で空木は首を傾げた。それでも彼女の纏うドレスのおかげで華やかさは失われない。  演劇の準備は順調に進み、演技練習も大詰めを迎えていた。  まだ大道具の組立や衣装の微調整なども残っているが、一週間後の文化祭には余裕で間に合うだろう。 「だって最後ってことは、雨が降るのはうちの劇の前だけってことだろ? それまでは普通に晴れてるんだから、うちの発表の時だけ体育館に人が押し寄せる」 「あー確かに」 「逆に何が最高なんだ?」 「いや、みんな長く文化祭楽しめそうだなあって」  空木の言葉に、僕はすぐに返事ができなかった。  彼女の言う通りだ。僕は空木の能力を利用して文化祭を盛り下げようとしている。  晴れてるほうが楽しいに決まってるのに。 「……なんで空木さんは僕に天気のこと教えてくれたの」  教えたこと、後悔してない?  そう訊くことはできなかった。せめて理由を知りたかった。  理由が分かればこの罪悪感もいくらか薄まるかもしれないから、なんて情けない話だが。  僕の問いに空木は簡潔明瞭な答えを口にする。 「え、ぼっちだったから」 「いや待って」  すごいカウンターだった。  罪悪感が薄まるどころか、心が擦り切れて無くなりそうだ。 「だって草凪くん、教室でいっつも一人じゃん。いじめられてるの?」 「ちがう。僕はあえて一人を選んでるんだ」 「結果ぼっち」 「TikTokみたいに言うな」  まあ、自覚がないこともない。  クラスメイトとは普通に会話こそすれ一緒に遊んだりはしない。避けているわけではなく、単に他人にあまり興味がないのだ。  そして興味のないことを積極的にするつもりもない。 「だから周りに言いふらしたりしなさそうじゃん」 「別に言いふらされて困るようなことじゃないだろ」 「ダメだよ」  ぴしゃりと彼女は空気を断ち切るように言う。 「信じてもらえるわけないでしょ」
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