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雨、ところにより、僕
物語は順調に進んでいく。
贔屓目なしにその完成度は素晴らしいものだった。音響、照明、装飾、そして演者。ステージ上ではすべての役割が完璧に作用し合い、ひとつの世界を作り上げていた。
観客も食い入るようにそれを見つめている。
目の前の出来事に驚き、息を呑み、どよめく。場面が変わるごとに客は増え、すでにステージ前にはひしめき合うように大きな人だかりができていた。
「すごいな、うちのクラス」
思わずそんな言葉が漏れる。
姑息な策を練るまでもなく、このクラスの本気は人を惹きつけるための力を十分持っていた。
その力を僕はきっと信じ切れていなかったんだろう。
一人を選んでいたから。他人と関わらなかったから。
もっと早く知ろうとしていれば、最初から正しい道を選べたのかもしれない。
きっと、彼女も。
「曇ってきたな」
舞台袖の監督が呟く。その声よりも前に僕は気付いていた。
物語が進むにつれ、空が暗くなっている。
きっと不安なのだ。ステージ上であれほど華やかに笑いながらも、心の中には暗雲が立ち込めているに違いない。
ラストシーンが近づいている。
この劇が終わったら、僕は彼女に嫌われるかもしれないな。
ふとそんなことを思った。それからすぐ自分の異変に気付く。
……何が「一人を選んでる」だよ。
こんなに嫌われたくないくせに。
「黒子、集合」
監督の声が聞こえた。
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