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「智樹、ひとりかくれんぼって何だと思う?」
「何? こっくりさんみたいなもんでしょ?」
「基本的にはそうだ。けれども本質的に大きく違うところがある。1つ目、こっくりさんは目的が定められていて、ひとりかくれんぼにはそれがない」
「目的?」
こっくりさんやヴィジャボードという降霊術の類は、何らかの霊を下ろすという目的がある。霊を呼んで何らかの知見を得たり、その霊自体を懐かしむ。
「ひとりかくれんぼは人形が追いかけてくる」
智樹はやはり、首を傾げた。
「それは霊が入ったんじゃないの?」
「霊かもしれない」
「じゃあ、同じじゃ?」
「問題はそれが何か、術式の内側には定められていないことなんだよ。つまり、オープンソースだ」
ひとりかくれんぼのぬいぐるみが何か、それはブラックボックスだ。なぜなら名前を付けるのは術者だからだ。人形に名前をつける。これが誰かの霊を求めたいのであれば、その名前をつければいい。けれども元々のぬいぐるみの名前をつければ、それはそのぬいぐるみが動く、ということだ。そして術者が自らの身体の一部をそのぬいぐるみに込めることの意味を考えれば、術者自身の写身ともなる。
「つまり、なんなの?」
智樹は整った眉を潜めた。
「この術式は不完全なんだ。完全にパッケージングされていない」
「不完全?」
「そう、目的をもって行使するには、いくつかの変数を埋めなければならない」
「目的?」
「そう。これは使い勝手もいまいちだが、極めて汎用的で、その術は知れ渡っている。だからこれで、人を殺せる」
呪いというのは特定の場合を除き、最も簡単に効果を及ぼすとすれば、それは心理的効果である。
呪ったことを相手に告知する。それによって自分が呪われていると認識すれば、その対象は心を蝕み、次第に負が積み重なる。つまり病む。
環は幽霊を見ることはない。環がサエコに憑いているものの本質と認識したのは悪意やら不幸、呪いといった漠然としたものであり、神津之介の姿ではなかった。一方で智樹がサエコに憑いたものとして認識したのはぬいぐるみの神津之介だ。それはその形が神津之介の形を取っていたからだ。
環は回想を打ち切り、時間を確認する。午前3時の10分前。
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