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第6話 厭魅の法
Sasrykvaを一言で言えば、愉快犯だ。つまりSasrykva自身が面白ければ、それでいい。
環が初めてSasrykvaに接した時、その狙いや目的について深く考えたが、今はやめている。おそらくSasrykvaは何かを成し遂げようとはしているのだろう。けれども現在Sasrykvaがインターネットを介して行っているのはおそらくその試験、つまりテストなのだろうと思い至る。それほどSasrykvaの行為は場当たり的で、無意味だ。そして積極的に不幸を招きたいとも思っていない。だから環が事態を終わらせようと意志を表示すれば、それと引き換えに自らの呪術の効果を試すため、それなりの確率で乗ってくる。
今回のひとりかくれんぼでSasrykvaが行いたかったことは恐らく、広く無関係な他人の力を利用するための実験だ。
「環、つまり今度は本当にそのモニタから神津之介が現れるの?」
「さて、それはSasrykvaが何をしたかったのかによる」
「まじか。たいていわけがわからないよね」
環の傍らで智樹がため息をつく。
「一番高い可能性は、神津之介がナイフで俺に襲いかかってくる」
「二番目は?」
「神津之介が俺に襲いかかってくる」
「ナイフの有無の違い?」
「いや、そういうわけじゃなくて。でもそうか。そこはSasrykvaもわかっていないのかもしれない」
所詮、いつも一方通行なのだ。
もうすぐ午前3時になる。
ここは昨日とは異なる環の隠れ場所で、親しい友人にのみ場所をしらせている空間だ。そこには昨日と同じようにモニタが置かれ、乱雑に様々なものが散らばっている。万一のために智樹が待機しているが、危険性故、奈美子には知らせていない。
「智樹、昨日も言ったけれど、この魔法は変な魔法なんだ」
「オープンソースって奴?」
「そう。けれども呪をかける練習には最適だ」
ひとりかくれんぼの一番妙なところは、それが自身に循環することだ。通常の呪術というものは、他人に対してかけられる。
ところがこの魔法は、自らの依代となるぬいぐるみに呪をかけ、その呪を自分に向けさせ、終了させる。ナイフを突きつけるという行為は恐らく、『ナイフを突きつけるという行為』自体が危険で、つまり術者が具体的にイメージしやすいからだろう。
つまり、このひとりかくれんぼという呪術はともすれば自分が危険になるだけの、本来何の意味もない術だ。
けれどもそのルーチンをスムーズに行うことができるようになれば、ぬいぐるみに入れる爪や髪を他人のものに変えて他人を呪うこともできる。その意志を依代としたぬいぐるみを思うがままに動かせるようになれば、それは媒体に限らず呪符や式といったものにも応用できるだろう。
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