第6話 厭魅の法

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 問題はSasrykvaがこのオープンソースな術式にどこまで変数を入れてきているかということだ。つまり、この一連の騒動によってSasrykvaが何がしたいかだ。 「智樹、おそらくあの動画を見て、一般市民が自分のところに神津之介を召喚できる可能性は著しく乏しい」 「そりゃあまあ、そうでしょ。来たら可愛いけど」 「何故だかわかるか?」 「……人形がモニタを通ってやってくるなんてありえないから?」 「そう。たいていの人間は、最終的にありえないと思う。だから現れない」 「環はまるで現れるみたいな言い方をするね」  本当に現れるかどうかというのは最終的な術者の力量によるのだろう。けれどもどれほど力量をもった術者でも、その結果を信じなければ魔法は起こせない。だから頓挫する。もとより荒唐無稽な話だ。 「けれども数万の視聴者の1割が試し、そこにさらに数人が紐づけされれば、微々たる思念もより集まり、何らかの力が生まれる、かもしれない」 「ねずみ講みたいだな」 「そうだな。Sasrykvaは多分そうやって力を集める実験をしていて、だから神津之介で、ぬいぐるみなんだ」  智樹は怪訝な表情を浮かべた。  この神津では誰もが神津之介を知っている。そして多くの家に1体くらいのぬいぐるみやキーホルダーはある。だから神津之介の姿や、それが自宅に存在するということをイメージしやすい。だから見知らぬ呪物や人形が家にやってくる、と具体的に想像するより、神津之介のぬいぐるみが家にいる、という事象は、遥かに想像が容易だ。  そして神津之介が現れるという思念はLIME通話で術者に繋がり、術者はそれが自分のところに現れるかもしれない、という中途半端な想起を生む。けれども最終的には信じ切ることはできず、その思念は頓挫し、その想起はモニタの向こう側で渦を巻く。 「それでSasrykvaはその中途半端な思念を集めて、何らかの変数を定めて、何かの目的に使おうとしているんだと思う」  環は『何か』ばかりだなと自嘲した。 「それ、危なくないの?」 「Sasrykvaが本来の目的に使う場合は、もっとわかりにくくやるだろうね。そこまでは俺は感知できないよ。ステマみたいなものだ。それでSasrykvaは自身の集めた神津之介を俺に送ると言っていた」 「じゃぁ神津之介がモニタからたくさん出てくるの?」 「そこが問題だな。果たしてそんな有象無象の思念が固まるものなのだろうか」  環はやれやれと伸びをした。
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