8人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 そのまじない
「おごるからさ、何でも頼んで」
「本当にいいんですか?」
「ありがとうございます!」
翌日、智樹が環の前に女子高生を2人つれてきた。環の右隣の2人がけの席を動かしてくっつけ、自身は環の隣に腰掛ける。その間、環はイラつきながら、タブレットに目を落とし続ける、というささやかな抗議を継続していた。
「こっちが俺の友達の環。サブカルな雑誌のライターをしててさ、そういうのに詳しいから」
環は智樹が自身を呪術師だと紹介しなかったことだけにはホッとしつつ、けれどもとりあえず文句を言うことに決めた。
「あのな、智樹。こういうのは予めアポを取るべきだろう?」
「だって環、スマホ持ってないじゃん」
「……それはそうだが」
「だったらここに来るのが早い」
環はさまざまな理由でスマホを携帯していない。
その代わり、遠出の用がない時はこのクウェス・コンクラーヴェで記事を書いている。だから環に用がある時にはここを訪れるしかないのだが、流石に女子高生と合コンのように飯を食うのは気が引けた。
何故ならここはデートスポットで、環の彼女ということになっている女子高生には来るなと言ってあるからだ。なのに他の女と、特に女子高生と飯を食ってるところを見られでもすれば、色々と面倒なのだ。
環は智樹に耳打ちする。
「おい智樹。神津之介の幽霊については話したのか?」
「言ってないよ。信じるわけないじゃん、神津之介の幽霊なんて」
その小さな応答に環は小さく頷いた。
智樹は幽霊が見えるが、そんなことを堂々とひけらかしても変な人にしか思われない。智樹はそのことをこれまでの人生で十分認識している。そして人間ではなくマスコットの幽霊など、智樹をよく知る環であればともかく、余人が信じられるはずがない。変な大人一直線だ。だから智樹は純粋に、困った女子高生にオカルトライターを紹介しただけだ。
だから環は、要件を早く終わらせることにした。
最初のコメントを投稿しよう!