第3話 その呪法

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 奈美子は呪いだとか魔術だとかそういうのが好きなのだ。智樹が話していない以上、智樹の認識する環のガチの本業を奈美子は知らないはずだが、そんなわけで危険なところに足をつっこみそうな奈美子を環はそこはかとなく止めている。 「智樹、入った神津之介はどうなると思う?」 「さぁ……わかんないけど、どっかにいく、のかな」 「それでこっちの動画だ。TotubeにUPされている」  それはなかなかに再生数のある動画だった。いわゆる実況で、投稿主はSasrykva(サスルィクヴァ)と示されている。 「あ、この人って」  Sasrykvaは良くも悪くも呪いを生み出すような動画を配信する、いわゆる界隈での有名人だ。様々なしがらみとの相克、というよりは環が若者だから詳しいだろうという思考を放棄した理由で、この神津に起きるネット界隈の複雑で新しい呪術の対処は環に丸投げされている。そんな簡単なものじゃないと反論しようと思えばできるものの、さりとてやはり、結果的に対処できるのは自分くらいなのだろうなといつも不満に思っている。  それでひとりかくれんぼと聞いて昨日ネットで検索したところ、このSasrykvaの動画がUPされていたわけだ。もともとひとりかくれんぼは巨大掲示板の実況によって爆発的に広がった新しい形態の術だ。インターネットに親和性がある。 「こっちは俺にも見えるんだよ」 「じゃあ本当にSasrykvaなんだ」  環は鞄から細いリップを取り出し智樹に渡す。智樹はそれを目の上下と鼻耳、口回り、つまり開口部に塗る。環が香木を練って作ったもので、その揮発する間、呪術の侵入を短期間に防ぐ。それを確認し、環は動画をスタートさせた。 『やぁ、皆さんこんばんは! 今日は『ひとりかくれんぼ』の活用方法をご紹介しましょう!』  真っ暗な画面にSasrykvaの不似合いに朗らかな声が響く。 「活用方法?」 「これまた実に愉快犯的な話でな」 『ちゃんと説明文は呼んでくれたかな? 必要なのはLIME電話とお友達と熱意、それからあなたの神津之介とお風呂とお塩、まあ一般的な用意だね。忘れずきちんとLIME通話をオンにしておくこと。それから、当然ながら喋らないこと』
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