2人が本棚に入れています
本棚に追加
梅雨時期。
どこにでもある駅前の、いつだってある夕暮れ時。
パン屋の軒先で、コート姿の男が湿気を吸った紙袋を抱えている。
店から出てきた近所のメガバンクの行員が、傘を開こうとして男に並ぶ。
「雨よ降れ」
男は何気ない素振りで、手にしていた紙袋を行員に渡す。
パシャパシャと足元で散る水しぶきに気を取られ、誰もそれに気づかない。
行員は紙袋を抱え、ビニール傘を差して歩き出す。
言うまでもなく既に降る雨の下、ただ無言で往く。
最初のコメントを投稿しよう!