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行員は銀行が入ったビルの裏手に回り、通用口に差し掛かる。
初老の警備員が、あくびした口を覆った手を、そのまま額にかざす。
通用口のマットにぼたぼたとしずくを零しながら、行員は傘を畳む。
そのまま持ち場に戻ろうと廊下を一歩踏み出す。
「雨よ降れ」
すれ違いざまに呟いた警備員に、行員は紙袋を渡す。
詰め所に控えている嘱託の受付員は舟を漕いでて気づかない。
行員が去ったあと、警備員は右手を後ろにやって、その場にじっと立ち尽くす。
時間になって若手のバイトと交代したが、背中に隠した紙袋は見つからない。
外ではいよいよ大降りになり、その中を黒の折り畳み傘で、黙って往く。
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